書類やメッセージを郵便で受け取る機会は、年を追うごとに少なくなっています。私のメールアドレスを知っている相手なら、何であれメールで送りつけてくるのが普通です。私のメールアドレスを知らない相手なら、よほどの事情、「こだわり」、私への愛着などがないかぎり、私に何かを届けるためだけに手間をかけて切手や封筒を用意することはないでしょう。
しかし、郵便物を受け取る機会が少なくなった分、以前なら好ましくないもの、あるいは、常識に反するものと見なされていたようなタイプの郵便物が散見するようになったように思われます。特に、何年か前から見かけることが増えたのが、「封緘(=封筒の口を糊付けして閉じる作業)に関する作法」に従わない郵便物です。好ましくない封緘は、たとえばダイレクトメールや請求書では発生しません。これらはいずれも、機械によって自動的に封入され、封緘されるからです。封緘をめぐる問題が発生するのは、人間の手でこの作業が行われるときにかぎられるようです。
封緘の作業において、私たちは、メッセージが認められた便箋やワープロを用いて作成された文書を適当な形に折りたたんで封筒に入れたのち、封筒のベロ(フタ)に糊をつけて内側に折り曲げ、本体に接着させます。このときに気をつけなければならない——と少なくとも私が子どものころに教えられていたのは——ベロ(フタ)の全体に糊をつけないこと、就中、本体と接続する折り目に近いところには決して糊をつけないようにすることです。
実際、世の中には、ベロ(フタ)にあらかじめついた糊を舐めることにより封緘することができるタイプの封筒がありますが、糊は、折り目に近い部分にはついていません。
ベロ(フタ)のうち折り目に近い部分に糊をつけてはいけないというのは、封緘に関する基本的な作法の1つです。なぜなら、この部分に糊をつけないことにより封緘後の封筒の上部に小さな隙間を残すことは、郵便物を受け取る側に対する心遣いに当たるからです。すなわち、この隙間は、郵便物を受け取った者が、ペーパーナイフの尖端を差し込んで一気に開封することができるようにするためのものなのです。(私自身、郵便物の開封にはペーパーナイフを使います。鋏を使うよりも格段に早く、また、内容物を傷める危険もないからです。)
実際、ベロ(フタ)の全体が糊づけされた郵便物を受け取った場合——専用の「レターオープナー」が手もとにあるのでなければ——開封に鋏が必要となってしまいます。