Home 世間話 車社会とは自動車を単位とする社会であることについて(その1)

車社会とは自動車を単位とする社会であることについて(その1)

by 清水真木

 数年前、沖縄を訪れたことがあります。以前に書いたとおり、私は、自動車を運転しません。したがって、沖縄では、モノレール、路線バス、タクシー、徒歩(、そして船)を組み合わせて移動していました。

 タクシーを無際限に使うことができるなら、「行けない場所」というものはないはずですが、それでも、間違った場所でタクシーを降ろされ、蒸し暑い天候の中、約1時間、道に迷いながら凸凹のあるサトウキビ畑の中を——ぬかるみに足を取られながら——歩いたこともあります。(膝より下が泥だらけになりました。)実際に公共の交通機関と徒歩のみで沖縄を移動してみた結果、那覇市内を除き、駅やバス停からどれほど近くにある施設でも、公共の交通機関で訪れる者がいることは最初から想定されていないのが普通であることに気づきました。やはり、沖縄を移動するときには、レンタカーを含む自家用車が必須のようです。

 ところで、沖縄を旅したとき、那覇から名護まで高速バスで移動し、名護のバスターミナルで別の路線バスに乗り換えたことがあります。新しいバスに乗り込むとき、ふと上の方を見ると、バスターミナルの隣のビルの屋上に設置されたマクドナルドの看板が目にとまりました。

 この建物の1階にマクドナルドがあるのかと最初は思ったのですが、看板を見直したところ、上向きの大きな矢印とともに、「5km先」と記されているのに気づきました。

 沖縄在住の方々には大変に申し訳ないのですが、私は、この看板に少なからぬショックを受けました。(だから、今もハッキリと記憶しています。)東京に暮らす者の感覚では、5キロメートル先のマクドナルドの店舗を案内する看板など、ありうべからざるものだからです。

 そもそも、少なくとも東京23区内には、最寄りのマクドナルドまでの距離が5キロメートルもある地点などありません。東京では、マクドナルドのある店舗が5キロメートル離れたところに自店の看板を設置しても、看板と自店のあいだに別の店舗がいくつもありますから、集客効果はゼロでしょう1

 しかし、問題の看板が私にショックを与えたのは、この点ではありません。5キロメートルというのは、徒歩と公共の交通機関だけで移動する者にとり、看板を用いて誘導する距離を超えているのです。「5km先」いう文字は、私の心の中で「徒歩1時間」という表現へとただちに翻訳され、さらに、「徒歩1時間はハンバーガーを買うのにふさわしいコストか」という問いに姿を変えました。自動車なら5キロメートルなど数分の距離であるという平凡な事実に気づいたのは、看板を眺めながら乗り込んだバスが発車してからしばらく経ってからでした。

  1. また、東京23区内では、アクセスに必要なコストが「m」や「km」のような「距離」で表示されることは滅多にありません。「○○駅から徒歩3分」のように、徒歩でのアクセスに必要な「所要時間」が示されるのが普通です。 []

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