私が住んでいるのは、東京都杉並区です。杉並区は、その名に反し、23区の中で緑地がもっとも乏しい区の1つです。
それでも、区内には、大きな公園があり、また、それなりに広い庭を持つ個人の住宅がないわけではありません。
ただ、公園のように地方公共団体が管理する空間、あるいは、神社のように、その維持に関して税制面での優遇がある施設とは異なり、個人が所有する庭は——それぞれの地域の緑化面積に算入されているにもかかわらず——法律上は、何にも使われていない単なる空き地と見なされ、高額の固定資産税が課せられます。これには、ほとんど何の優遇措置もありません。
たしかに、わが国には、固定資産税と都市計画税の軽減措置として、小規模宅地に関する特例というものがあります。しかし、土地が専用住宅に使用され、かつ、その面積が200平方メートル以下であることが適用の条件です。この規模の場合、建ぺい率50パーセント、容積率100パーセントの土地の中央に、可能なかぎり大きな住宅を建設すると、建物の周囲に若干のスペースが残るだけであり、「庭」と呼ぶことができるような空間が成立する余地はありません。(100平方メートルの正方形の土地なら、建物の周囲に幅約1.5メートルのスペースが残るだけです。)
23区内を歩いているとき、誰の目にも「個人の庭」と映るような空間を見つけたら、それは、建ぺい率と容積率に余裕がある——この意味で贅沢な——住宅であるか、あるいは、敷地面積がよほど広いかのいずれかでしょう。
また、このような庭の存在は、高額の固定資産税を支払った上で、庭の維持管理の負担に財政的に耐えられる所有者がいることを意味します。
都会の緑を守ることは大切です。特に、政府や地方公共団体が所有し管理する(市街地の)土地において、市民の同意なく樹木を伐採するようなことは基本的にしてはならないことでしょう。
けれども、個人の庭については、そのメインテナンスに途方もないコストがかかります。誰の依頼でもなく、命令でもなく、まったく自発的に維持されているものです。したがって、庭を潰してアパートを建てるのも、その土地を売り払うのも、所有者の自由であり、他人が口出ししてはならないことです。
もう何年も前になりますが、自宅の庭にあった大きなヒマラヤスギを伐採したとき、「木を伐るなど許さん!」などと叫ぶ人々がどこからともなく湧いてきて、ちょっとした騒ぎになったことがあります。
緑を守れと要求するのは結構ですが、それとともに、「木を伐るなど許さん!」などと叫びならが見ず知らずの他人の家に押しかける人々には、緑を守るのにかかる費用を冷静に計算し、自分が何十年にもわたって肩代わりすることができるかどうか、胸に手を当てて考えてみることをおすすめします。
緑豊かな広い庭を潰してアパートを建てることを計画している所有者に私たちがかけるべき言葉は、「木を伐るなど許さん!」ではなく、「今まで緑を守ってくれてありがとうございます」でなければならないはずなのです。都会において緑を守る個人の努力を評価することができない者に、「緑を守れ」などと叫ぶ資格はないと私は考えています。