最近、繁華街にあるいくつかの大型の商業施設で買い物したとき、あることに気づきました。それは、高層の商業施設の多くで階段が使えないことです。あらかじめ言っておくなら、私が「商業施設」と名づけるものには、いわゆる「雑居ビル」は含まれません。百貨店やこれに似た大型の小売店が、私の想定する「商業施設」です。
もちろん、それなりの規模の商業施設なら、階段が何もないことはありません。建築基準法は、このような施設に対し、非常時に使用する避難階段の設置を求めているからです。実際、どのような商業施設でも、各階に掲げられたフロア案内には、非常時に用いられる避難階段の位置が示されています。
しかし、施設の方は、このような階段をあくまでも避難専用と考えているのでしょう、普段は、買い物客が立ち入らないよう、シャッターや鍵のかかった扉でアクセスできないことが少なくありません。
特に、新しい商業施設の建物、あるいは、全面的に改装された商業施設の場合、私が知るかぎりではほぼすべてにおいて、フロアのあいだの移動に階段を使うことはできません。
これもまた私の知るかぎりでは、買い物客に階段を開放している商業施設では、ほぼ例外なく、お手洗いが階段の踊り場や階段前のホールに設けられています。これらの商業施設が階段を開放しているのは移動の手段を提供するためではなく、お手洗いを使わせるためであるに違いありません。
たしかに、たとえば「駅ビル」のような商業施設では、買い物客は、どちらかと言うと、目指す店舗に直行するだけであり、階段を使ってすぐ下の階やすぐ上の階に移動して回遊するという行動は想定されていないのかも知れません。また、もっとも下の階からもっとも上の階まで階段のみでアクセスすることが可能であると、「バーティカル・ラン」に代表される一種の「迷惑行為」の場となる危険がないことはないでしょう。
それでも、私は、階段は開放されていることを望みます。なぜなら、「階段は使用不可、上下の移動はエレベーターとエスカレーターのみ」という商業施設では、私は、好きなように逍遙する自由を制限され、施設があらかじめ決めた動線に沿って売り場に直行するほかはないからです。
たしかに、商業施設にとり、私は、単なる「カネを落とす(かも知れない)機械」にすぎないのかも知れません。それでも、上下の移動のために階段くらいは開放してもよいのではないかという気もするのです((土地がよほど狭小でないかぎり、東京23区内にある主な百貨店はいずれも、階段を客に開放しています。階段を常時使用することができるかどうかという点に、それぞれの商業施設の「格」が表れているのかも知れません。))。