※以下の文章は、「大学入試の試験場では高校の制服を禁止すべきだと思う(前篇)」の続きです。
試験場での制服の着用を禁止すべきであると私が考えるのには、さらにもう1つ理由があります。
すなわち、制服を身につけて試験場に臨むのが高等学校の指導によるものであるとするなら、それは、状況によっては差別を産み出す危険があるように私には思われます。
地方の大学の試験場には、私服で現れる受験者がいないことはありません。しかし、彼ら/彼女らが制服を身につけていないのは、おそらく「着るべき制服がない」からにすぎないように思われます。つまり、彼ら/彼女らは、ほぼ例外なく浪人なのです。
地方の大学の試験場では、制服を着ることができるかぎりにおいて、原則としてすべての受験者が制服を身につけていると仮定します。この場合、私服の受験者は目立ちます。彼ら/彼女らは、自分たちが浪人であることを否応なく自覚し続けなければならないかも知れません。(まったく気にしない、という受験者もいるとは思いますが。)高等学校の制服を身につけて試験に臨むよう高等学校が指導しているのであるとするなら、それは、意図せざる嫌がらせに当たる可能性があるのです。
わが国では、筆記試験による入学者の選抜には高い匿名性が保証されています。最近20年のあいだに合格発表において受験者の氏名が公表されなくなったばかりではなく、そもそも、キャンパスにおける合格発表自体が行われなくなり、合否はネットで照会するものへと変化しました*1。
現在のわが国の大学は、誰が受験し、誰が合格したのか、合格者が何人であったのか、などの情報を原則として一切公開していません。また、多くの大学は、試験場におけるスマホの使用を、休み時間を含めて原則として禁止していますが、これもまた、(撮影される危険から)プライバシーを保護するための措置として導入されたものです。
わが国の大学が受験者のプライバシーをこれほど大切にしているのであるなら、また、多様な受験者を集めることを望むのなら、「制服組」が特に多い地方の大学では、試験場における高等学校の制服を着用を禁止するのが適当であると私は考えています*2。
*1:とはいえ、国公立大学については、納税者への責任という観点から、合格者の氏名をすべて公表すべきであり、合格した場合に氏名を公表されたくなければそもそも受験しないよう大学が受験者に促すのが道理であると考えています。
*2:制服を着用する受験者が少数派の――東京のような――地域では、制服を禁止する必要はありません。というのも、このような場合、制服を身につけることはコスプレの一種でしかないからです。