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「もらわないと食べられない菓子」について

by 清水真木

 世の中には、「手土産専用」あるいは「贈答専用」の菓子というものがあります。百貨店の地下に出店している菓子屋のウィンドウの前を歩くだけで、自分で消費するために購うことが最初から想定されていない商品を容易に見つけることができます。

 大抵の場合、これらは、箱に入っている、ある程度日持ちする、それなりに高額、などの共通の特徴を持っています。

 実際、このような菓子を店頭で購入すると、こちらが何も言わなくても、商品は手土産にふさわしく包装され、手土産としてそのまま渡すことができるよう、紙袋に入った状態で渡されるのが普通です。

 ところで、私は、酒を飲みません。また、酒を飲まない人々の多くと同じように、甘いものを好みます。もともと太りやすい体質で、減量を中止するとすぐに、横幅が風船のように膨張するため、甘いものをいつでも自由に食べられるわけではありませんが、それでも、体重と闘いながら、おいしそうなものを探し続けています。

 とはいえ、この探索には、1つの壁があります。それが「手土産専用」あるいは「贈答専用」の菓子類です。これに手を出すことにはためらいを感じます。このような菓子は、「誰かから与えられたときにのみ口にすることが許されるもの」「誰かから与えられるまで待つべきもの」という空気を帯びているからです。また、このような商品は、サイズが大きく、賞味期限までにひとりでは消費することができない危険があります。これもまた、「手土産専用」あるいは「贈答専用」の菓子に手を出しにくい理由です。

 「手土産専用」あるいは「贈答専用」の菓子を代表するのは羊羹でしょう。自分で商品するために購うという想定のもとで製造、販売されている羊羹は、安くてまずいのが普通ですが、「手土産専用」あるいは「贈答専用」の羊羹は、自分で購入するのには割高です。このような事情のせいで、私は、何年ものあいだ、羊羹から遠ざかっていました。高額でおいしいものと安くてまずいものへと二極分解しており、両者の中間に当たるものが見当たらないというのは、羊羹に固有の事情なのでしょう。

 ところが、しばらく前、羊羹をどうしても食べたくなり、何日か迷った挙げ句、意を決して虎屋の羊羹を自分のために購入しました。購入したのは、小さな羊羹の詰め合わせではなく、竹の皮に包まれた約700グラムのものです。当然、手土産用に包装され、紙袋に入った状態で渡されました。自分のためにこれほど大きなサイズの高額の羊羹を購入するのは初めてでした。(買った日から1週間以上かけてすべて消費し、そして、大いに満足しました。)

 自己啓発書を読んでいると、「安物ばかりを買うのは、自分が安物にふさわしいと考えている証拠だから、自己肯定感を手に入れたいなら、あえて高いものを自分のために購入しましょう」などという無責任なアドバイスに出会うことが少なくありません。しかし、「手土産専用」あるいは「贈答専用」の菓子の中には、高額でかさばる以外に何の価値もないものが散見します。菓子の場合、単価と品質のあいだの相関関係は必ずしも明らかではありませんが、それでも、羊羹についてだけは、上記の「アドバイス」はいくらか正しいように思われました。

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