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「クロスドミナンス」について

by 清水真木

 私はもともとは左利きです。しかし、自宅の外での私の行動を観察しても、私が左利きであることはわからないかも知れません。というのも、他人のいくつかの動作については、小学校に入る前に、これを右手で行うように矯正されているからです。

 誰かが左利きであることを知るきっかけのうち、観察がもっとも容易なのは、何かを「書く」動作でしょう。たとえば、アメリカのオバマ元大統領は左利きですが、文書に左手で署名する姿がテレビに映れば、左利きであることはただちに伝わります。

 しかし、私には、誰が見ても左利きであることがすぐにわかる目印がありません*1。文字を書くとき、および、箸、フォーク、スプーンを使うときに右手を使うよう矯正されたためです。左利きであることを知ってもらうことが必要なときには、自分からこの事実を告げなければなりません。(だから、オバマのような純粋な左利きがときどき羨ましくなります。)

 とはいえ、矯正があくまでも部分的かつ個別的なものであったせいで、日常生活の動作に関するかぎり、私は、事実上の「クロスドミナンス」の状態になっています。

 たとえば、文字を書く動作は、それ自体としては右手で行われます。文字を右手で書くよう矯正されたからです。しかし、消しゴムで文字を消す動作は矯正されませんでした。そのため、現在でも、文字を消す動作には左手を使います。(同じように、教室で授業中、黒板に文字を書くときには右手を使い、文字を消すときには左手を使います。)

 また、食事するときには、箸とフォークとスプーンは右手で使います。しかし、同じ食べ物に関係する動作でも、料理では、道具を原則として左手で扱います。包丁を使うのも、片手鍋を握るのも、へらでかき回すのも、すべて左手です。(私の自宅の台所のレイアウトは「左利き仕様」です。)ただ、「菜箸」だけは右手で扱います。これは、箸の一種だからです。

 クロスドミナンスの状態では「左右盲」になる場合が多いようです。私自身、大学に入学するころまでは、左右を直観的に区別することができず、左手の親指と人差し指のあいだにある小さなほくろを目印として使っていました。「右に曲がれ」とか「左を向け」などのように指示されるたびに、両手を目の前に出して左右を確認していたのを憶えています。今でもまだ、左右を間違えることがときどきあります。(言うまでもないことですが、政治的な左右ではなく、空間的な左右の話です。)

*1:私は、駅で自動改札を通るとき、ICカードを必ず左手に持ち、身体の右側にあるセンサーにタッチします。しかし、この動作の観察にもとづいて私が左利きであることを推測するのは、シャーロック・ホームズでも容易ではないはずです。

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