Home 高等教育 入試において監督者は何のためにいるのか(その2)

入試において監督者は何のためにいるのか(その2)

by 清水真木

そもそも、試験室にいる受験者は、権利上、不正行為との関係において3種類に分かたれます。すなわち、

  1. 誰かから監視されていても、あるいは、誰からも監視されていなくても、決してカンニングしない受験者、
  2. 誰からも見られていなければカンニングする可能性がゼロではないが、見られている環境ではカンニングしない受験者、
  3. 監視されているかどうかには関係なくカンニングする受験者

の3種類の受験者が同じ試験室にいる可能性があります。もちろん、これらのうち、3.はごく少数であり、99.99%以上は、1.あるいは2.であるに違いありません。

試験室にいる受験者が全員1.であるなら、監督者は不要です。同じように、3.の受験者のみを集めて1つの試験室を作るなら、これは完全なカオスであり、試験は成立しません。もちろん、監督者は何の役にも立ちません。この部屋に必要なのは監督者ではなく、警察でしょう。

しかし、1.と3.の中間に当たる2.の受験者が無事に受験することができるためには、監督者が必要となります。そして、入学試験における監督者のもっとも重要な仕事は、2.の受験者の行動のコントロールにあります。

大学入試センターも各大学も、入学試験の監督者に対し、挙動不審な受験者への注意や警告を心がけるよう求めていますが*1、それは、不正行為を思いとどまるよう無言の圧力をかけることが監督者の役割だからです*2

もちろん、入学試験のとき、試験中の試験室に監督者がいるのは、試験室の環境の維持のためであり、2.に当たる受験者の行動のコントロールは、その手段の1つにすぎません。したがって、どれほど不審に見える受験者がいても、たとえば監督者がその横に立ったまま試験時間中ずっとその受験者を注視する、というようなふるまいは好ましくないと一般に考えられています。3.の受験者がカンニングを実行しても、監督者にその責めを負わせることは適当ではないと私は考えています。(もちろん、監督者が居眠りしたり内職したりしていたことが原因で発生した不正行為については、このかぎりではありません。)

*1:大抵の場合、カンニングしようとする受験者は、自分が見られていないことを確認するため、試験室を見渡して監督者たちの位置と視線をチェックします。この事前の「モーション」が監督者の目に「挙動不審」と映るとき、監督者は、これをカンニングの前兆と見なして受験者に注意や警告を発することになります。また、死角を作らないことが不正行為の抑止に効果的であるなら、受験者50人の試験室に2人の監督者を配置するよりも、受験者500人の試験室に5人の監督者を配置する方が抑止効果は高いことになります。ただ、同僚や知人から間接的に聴くかぎり、最近は、定期試験でも入学試験でも、監督者の位置を把握する事前の「モーション」を省略してカンニングをいきなり始める受験者/学生が増えているようです。試験中の試験室に監督者を配置することで2.のタイプの受験者の不正行為を未然に防止するというこれまでの手法が、次第に通用しなくなりつつあるのかも知れません。

*2:この意味において、試験の監督は、裏返しの「営業」のようなものであると言うことができます。というのも、〈商品の購入を最初から決めている客には営業は不要であり、商品を購入する気がない客に商品を買わせるのは営業ではなく詐欺であり、商品を買うかどうか迷っている客に商品の購入を促すことに営業の存在理由がある〉からです。

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