街を歩いていると、パン屋の看板に注意が惹きつけられることがあります。そして、見つけた店から私の自宅までの所要時間が1時間以内であり、店を見つけたのが帰宅の途中であり、かつ、時間に多少の余裕があるなら、店に入って何かを買うことがあります。「パンが好きなのか」と問われるなら、私は、「3食パンでもかまわないというほどではないが、少なくとも嫌いではない」と答えます。
ただ、残念なことに、パン屋の居心地は、つねに好ましいものであるとはかぎりません。そもそも、平日の昼間にパン屋で買い物する客の大半は女性です。実際、パン屋は、女性の客の入りやすさを考慮した外観を具えているのが普通です。スーツを着た男性の客が1人で入ることは、(歓迎されていないわけではないとしても、少なくとも)想定されてはいないと考えるのが自然です。
しばらく前、東急東横線沿線のある駅の近くのパン屋に入ったことがあります。そのとき、大変に混雑した店内にいた客は、私を除き全員女性でした。私は、大いに戸惑い、入口の近くにたまたま立っていた女性の店員に「もしかして、この店は女性限定なのですか」と尋ねました。(戻ってきたのは、「違います」というそっけない答えでした。)
また、これとは別の機会に、都心のあるパン屋に入り、注文の順番を待っていたところ、私の存在感があまりにも希薄だったからなのでしょう、たまたま近くにいた女性の客の〈連れ〉と勘違いされ、注文の順番を飛ばされたこともあります。
男性にとり、パン屋での買い物は、相当にストレスフルな環境のもとでの行動となる可能性があるようです。
なお、パンというのは、加熱されているとはいえ、野菜、肉、魚と同じくらい「足が早い」食品です。焼き上がったパンは、その瞬間から劣化し始めます。パンを購入したら、何を措いても自宅に直行し、すぐに食べない分は冷凍庫に放り込んでしまわなければなりません。購入してから1時間以内に消費してしまうこと、あるいは、冷凍庫に放り込むことは、パンをおいしく食べるための最低限の工夫であると言うことができます。(後篇に続く)