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何年か前から、地下鉄の車内や駅のホームで見かけるたびに違和感を覚えていたものがあります。東京メトロの広告に決まって使われている”Find my Tokyo.”という文字列です。
この文字列を最初に見たとき、私は、これを英語の文、具体的には命令文と見なしました。実際、日本人の多くは、これを英語の命令文として読むはずです。
ところが、この文を命令文と見なして理解する試みは、困難にただちに逢着します。というのも、”Find my Tokyo.”は、文字どおりには、「私の東京を見つけてください」を意味するからです。
私たちは、広告を眺めるたびに、〈私〉を名乗る見ず知らずの誰かから「私の東京を見つけてください」という謎のメッセージを投げかけられているわけですが、そもそも、「私の東京を見つけてください」と言っている当の〈私〉とは誰なのか、また、なぜこの広告を眺めている私たちがその〈私〉にとっての〈私の東京〉なるものを見つけなければならないのか、サッパリわからないのです。私自身は——IngressやPokemon GOのような——位置情報を使ったオンラインゲームが広告に隠されているのではないか、と疑ってみたことすらあります。
実際、ネット上には、”Find my Tokyo.”は英語として誤りであり、せめて”Find your Tokyo.”とすべき、という意味の発言が散見します。
これを英語の文と見なすなら、そのように修正するのが適当であるに違いありません。(後篇に続く)