Home 高等教育 シラバスを読まずに履修登録すると、どのようなことが起こるか(その1)

シラバスを読まずに履修登録すると、どのようなことが起こるか(その1)

by 清水真木

 わが国の大学は、毎年、「シラバス」(syllabus) なるものを作成、公開しています。(授業科目によっては、シラバスの他に、これを解説する資料や動画が作成、公開されます。)シラバスというのは、当の大学が開講する授業科目の1つひとつについて、使用する教科書、学期中に読むべき文献、各回の内容、授業の進め方、成績評価の方法、学習上の注意点などをまとめた文書のことです。

 1990年代後半以降、文部科学省は、各大学に対し、シラバスを作成して年度の初めに学生に公表することを事実上義務づけています。また、シラバスに記入すべき情報も、文部科学省によって細かく定められており、しかも、その指定は、年を追うごとに細かくなっています。

 私立大学の場合、会計検査でシラバスの記載に不備が見つかると、補助金が減額される危険があります。当然、各大学では、毎年、教員がシラバスを作成してから新年度に公開されるまでのあいだ、つまり年度末に、必要な情報が必要な表現を用いて正しく記載されているかどうか、大学当局がこれを必ずチェックします。

 もっともよく知られているのは、成績評価の方法に言及するときに「出席点」という言葉を使用してはならないというルールです。学生が授業に出席するのは当然であり、出欠は学力とは何の関係もない、だから、出席回数を考慮して成績評価することは認められない、というのが文部科学省の見解のようです。シラバスに散見する「授業への貢献」「授業への参加意欲」などの謎めいた表現は、「出席点」の事実上の言い換えです。

 各学期の授業のうち、初回の内容を説明するときに「ガイダンス」という表現を用いてはならない、というのもまた、大学の世界では有名なルールです。文部科学省によれば、ガイダンスは授業じゃないから、だそうです。(「○○の世界」「○○への導入」「○○の扉を開く」などは、「ガイダンス」の言い換えのために新しく考案された表現です。)

 もちろん、膨大な授業科目のシラバスのすべてを——使用禁止の表現にいたるまで——チェックする作業は、大学にとっては大変な負担になります。時間を節約するためなのでしょう、会計検査に適合するよう、シラバスの内容を担当教員の承諾なしに修正してしまう大学もあります。

 ところで、文部科学省がこれほどの負担を各大学に強いて作成させているシラバスにはどのような意義があるのでしょうか。

 少なくとも「お約束」としては、各学期の授業開始前に、学生は、自分が履修を計画している授業科目、あるいは、履修しなければならない授業科目のシラバスに目を通し、その内容を確認して授業に臨むことになっています。シラバスは、選択科目については、履修するかどうかの判断材料になりますし、必修科目の場合、予習復習などに関する具体的な指示がそこには記されているはずです。

 そして、この「お約束」が教えるように、シラバスは、ただ作成し公開すればよいものではありません。これは、授業科目の実施計画書であり、学生との契約書に相当します。つまり、それぞれの授業科目は、原則としてシラバスにあらかじめ記されたとおりに行われなければならないことになっているのです。

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