Home 言葉の問題 「あなたは何ゴミ?」について(全4回の3)

「あなたは何ゴミ?」について(全4回の3)

by 清水真木

※この文章は、「『あなたは何ゴミ?』について(全4回の1)」および「『あなたは何ゴミ?』について(全4回の2)」の続きです。

 ところが、最近、世界には、日本語との関係において、このような理解が通用しない言語があることに気づきました。

 今から3年近く前、次の記事を読みました。

 これら記事では、中国の上海において、2019年7月1日ゴミの分別を義務化する条例が施行されたという事実、および、その意義と予想される影響が取り上げられています。環境問題への対応の一環としてゴミの分別が大規模かつ徹底的に行われることになり、しかし、分別の基準が不自然であるせいで、市民がこれに頭を悩ませていることが記されています。

 ところで、上海では、分別されたゴミを投入するボックスが集積所に設置され、住民がゴミを集積所にゴミを運んでくると、集積所の前に待ちかまえる「中年女性」たち——その正体は「居民委員会」の幹部であるようです——が、正しい分別を指導するようです1

 このゴミの分別は、それ自体としては、平均的な日本人の注意を特に惹くものではありません。わが国では、一部の自治体やマンションにおいて、管理人によって入居者のゴミがチェックされることがあるからです2 。上海市民にとってもまた、ゴミの分別がそれ自体として問題だったわけではありません。

 上海市民の注意が否応なく向けられたのは、そして、市民のあいだで微妙な反応を惹き起こしたのは、ゴミを運んできた住民に対し、「中年女性」たちが「あなたは何ゴミ?」(你是什么垃圾?)といちいち尋ねたという点です。

 この「你是什么垃圾?」という表現は、ネット上で拡散し、2019年の中国で流行語になったようです。

 集積所で待ちかまえる「中年女性」が「あなたは何ゴミ?」という質問を投げかけるのは、住民が持ってきたゴミの種類を知るためであると考えるのが妥当です。「あなたは何ゴミ?」とは、「あなたが持ってきたのはどのようなゴミですか?」の短縮形であることになります。

 ところが、この同じ「你是什么垃圾?」は、「あなたが持ってきたのはどのようなゴミですか?」という意味の他に、「あなたはどのようなゴミですか?」という意味にも理解することができます。

 たしかに、ゴミの集積所に足を運ぶたびに「あなたはどのようなゴミですか?」と問われるのは、決して気持ちのよいものではありません。

  1. 私は中国に行ったことがありません。したがって、「居民委員会」なるものについては何も知りません。また、「居民委員会」の幹部を「中年女性」と表現してかまわないのかどうかという点についても、何もわかりません。 []
  2. わが国の法律では、ゴミの開封調査は違法と見なされる可能性があります。 []

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