数日前、大学入学共通テストの世界史の問題が会場で撮影され、不正行為を目的として外部に送信されていたことが報道されました。入試における不正行為は、偽計業務妨害に当たります。今日(1月27日)の正午の時点では、まだ誰も逮捕されていませんが、撮影と送信がいずれもデジタルな手段を用いて行われたものですから、警察の捜査により、多少の手間と時間はかかるとしても、誰がどこで撮影したのか、まもなく明らかになるでしょう。
ところで、この事件に関連し、「試験監督は何をやっていたのだ」という疑問あるいは非難の声が上がっているのを目にしました。たしかに、今回の事件は、試験室当たりの監督者を大学入試センターが定める数よりもさらに増やすことにより、あるいは未然に防止することができたかも知れません。
ただ、これまで20年以上にわたり、入試の監督業務に携わってきた者としてあえて論評するなら、このような事件を人力で完全に抑え込むことは困難であるように思われます。また、この件で監督者を責めるのは見当違いであると私は考えています。この事件に関連し、「試験監督は何をやっていたのだ」などとSNSで吠えている人々の多くは、入学試験における監督者の役割について真面目に考えたことがないのではないかという気がします。(十分に考えた上で吠えているのなら、もちろん、大いに結構ではありますが。)
大抵の場合、監督者は、試験の開始前に問題と解答用紙を配布し、試験の終了後に、答案を回収します。しかし、厳密に考えるなら、これら2つは、慣例的に監督者の業務に含まれていますが、狭い意味における「試験監督」ではありません。
それでは、この2つの作業のあいだの時間、つまり試験中に、監督者が試験室で行っている「監督」とは何でしょうか。なぜ監督者は試験室にいなければいけないのしょうか。もっとも多くの人は、「監督者は不正行為を取り締まるために試験室にいる」と答えるに違いありませんが、これは誤りです。
たしかに、監督者は、不正行為の現場を見つければ、当然、これを取り締まります。しかし、監督者は、不正行為を取り締まるために試験室にいるのではありません。監督者が試験室にいるのは、試験が成立する環境を維持するためです。不正行為に話を限定するなら、監督者の仕事は、これを取り締まり摘発することではなく、未然に防止すること、つまり、不正行為に着手しにくい環境を作ることなのです。