一昨日、次のような文章を書きました。
以下は、この文章に対する補足です。
上の文章は、下記の記事に関するものでした。
この記事の2ページ目に、次のような一節があります。
ちなみに、一度不合格となった科目を再履修した場合は、最終的なGPは再履修後の成績が反映されることが多いです。つまり一定の取り返しはつくようになっています。
この一節を読んだとき、私は、これは間違いである、ただちに訂正すべきであると心の中で叫びました。というのも、各科目の表面上の成績については「取り返し」をつけることができるのに反し、GPAは、定義上、「取り返し」がつかないというのが私の理解だったからです。
しかし、この記事のもとになった書物の著者はいずれも、大学における成績評価のシステムについてそれなりに専門的な知見を持っているはずです。(20年以上も大学の教師を続けているとはいえ、)素人の私にでもすぐにわかるような初歩的なミスが残っているとは考えにくい、とも思いました。
そこで、いくつかの大学をランダムに抽出し、ネットでわかる範囲でGPAの算出方法を調べてみたところ、特に再履修した科目のGPについて、算出方法が大きく2つに区分されることがわかりました。
まず、私にとって馴染みのある方式は、再履修した科目のGPを次のように扱います。
- たとえば、ある学生が半期2単位、前期後期で4単位の科目を1年生のときに履修して単位を落としたとします。この場合、成績表には、前期後期ともF(大学によってはD)の記号が印字されます。しかし、同じ科目を2年生のときに再履修し、そして、前期後期ともにSの成績を取得すると、2年生の終わりに公表される成績表では、この科目の成績は上書きされ、前期後期の両方についてSの評価だけが印字されます。したがって、たとえば4年生になり、内々定を得た企業に対し成績証明書を提出する場合、各科目の成績評価にはこのように「化粧が施されている」可能性があります。
- しかし、上に引用した一節とは異なり、GPは上書きされません。つまり、この学生の場合、当該科目の見かけの評価は前期後期ともSですが、GPAには、2年生のときのGP(4単位分について4) だけではなく、1年生のときのGP(4単位分について0)も算入されます。(取得単位数ではなく、履修登録単位数が分母になります。)通算すると、この科目のGPは(Sに相当する4.00ではなく)2.00にしかなりません。
私が勤務する大学は、この方式(仮に「黒歴史算入方式」と呼びます)を採用しており、また、私に調べられた範囲では、首都圏の私立大学の大半がこの方式にもとづいてGPAを計算しています。全体としては、この黒歴史算入方式を採用する大学の方が多いのではないかと思います。
ところが、地方の国立大学を中心として、いくつかの大学では、これとは異なる算出方法が採用されているようです。この方式に従うなら、1年生で落とした単位を2年生のときに再履修で取得した場合、各科目の成績に合わせ、1年生のときに落とした4単位分のGPもまた上書きされます。(つまり、分母が増えません。)上の例の場合、黒歴史算入方式では、8単位分のGPAは2.00となるのに対し、新しい成績によって各科目の評価ばかりではなくGPまで上書きされる(仮に「黒歴史消去方式」と呼びます)と、GPAは4.00になります。(大学によっては、不正行為によって抹消された単位すら、再履修して単位を取得することで上書きされるようです。)
馴染みがあるのが黒歴史算入方式であるせいか、私は、少数の大学が採用する黒歴史消去方式には違和感を覚えます。
第1に、黒歴史消去方式を採用した場合、成績証明書に印字されるGPAは、そこに記載された科目の成績を単純に合算したものと同じであることになります。しかし、これでは、各科目の成績とは別にGPAをわざわざ算出し印字する意味がなくなります。
第2に、GPAというのは、各科目の成績とは別に、入学以来の履修行動の全体を評価するためのものであり、単位を落としたという事実(黒歴史)を含めて数値化することに意味があるはずです。実際、黒歴史算入方式でGPAを算出する大学では、成績表にF(大学によってはD)の印字が1つもないにもかかわらず、同じ成績表に印字されたGPAが1.00を下回る場合があります。もちろん、黒歴史消去方式では、このようなことは決して起こりません。
第3に、GPAが留学や就職活動において採否の基準として利用される——少なくとも民間企業の採用活動における成績評価の利用には私は反対します——とき、算出方法に違いがあると、不公平を生じることになります。(当然、黒歴史消去方式の方がGPAは高くなりますし、学年が進んでからGPAを大幅に引き上げることも不可能ではありません。)
GPAが大学間の学力の比較に使われる可能性が少しでもあるなら、算出方法がまちまちの状態を放置することは好ましくないはずです。GPAの意味と意義について合意を形成し、全国一律の算出方法を決めることが必要であるように思われます。