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「御用達」

by 清水真木

 「御用達」という3文字からなる熟語をどのように発音するか。これは、人によって判断のわかれるところでしょう。

 私自身は、これを「ごようたつ」と読みます。また、「ごようたし」は、少なくとも私にとっては、明確に誤った発音です。

 もちろん、世の中には、これを「ごようたし」と発音する人が少なくないことを私は知っています。かつて、ある民放のテレビ番組を見ていたとき、出演しているアナウンサーが「御用達」を「ごようたし」と発音しているのを耳にして違和感を覚えたことがあります。(「ごようたし」という発音まで含む商標やキャッチコピーのようなものがそこで話題になっていたわけではありません。)

 民放とはいえ、テレビ番組が「ごうようたし」という読み方を許容しているという事実は、相当な数の人日本人が「ごようたし」を許容していることを予想させます。いや、ことによると、「ごようたし」は、ただ容認された発音にすぎないのではなく、むしろ、「ごようたつ」派よりも「ごようたし」派の方が数としては多いのかも知れません。

 私自身が「ごようたし」を誤りと見なしてきたのには、さしあたり、「家族が全員『ごようたつ』派だったから」という以上の背景はありません。しかし、今でも、「ごようたし」が誤りであるという意見を変えていません。「達」を「たし」と読むことに抵抗を覚えるからです。

 たしかに、「ごようたし」という音が最初に生まれて流通し、その後、たとえば看板に「ごうようたし」を漢字で表記する必要に迫られて「御用達」という三文字熟語が作られた……、「ごようたし」という発音の起源をこのように想定することは可能です。そして、この場合、「御用達」は当て字であり、「ごようたし」と発音するのが正しいことになります。

 しかし、「御用達」の文字が最初に記され、当初は「ごようたつ」という発音しかなかったと考えることもまた、不可能ではないように思われます。すなわち、「御用達」を発音するとき、「用」という文字が「足す」を連想させ、かつ、「達(たつ)」と「足す(たす)」が発音の点で似ているせいで、「御用達」が「『御用』を『足す』」ことであるという勘違いが促され、最終的に、「ごようたし」という発音が生まれたと考えることもできます。この場合、「ごようたし」という発音は、字面が惹き起こす安直な連想に引きずられた単純な誤りであることになります。

 私が「御用達」を「ごようたつ」と読むことにこだわるのは、「ごようたし」という発音に言語使用の「だらしのなさ」と「無神経さ」を聴き取ってしまうからであるような気がします。(もちろん、「御用達」をどう読むかによって、その人が言語使用に関して――したがって、思考において――どの程度まで無神経で粗雑であるかがわかる、とまで言うつもりはありません。)

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