2019年までは、多くの企業が毎年10月1日に「内定式」と呼ばれる儀式を開催していました。新型コロナウィルス感染症の影響でこの慣習が変化するのかどうかわかりませんが、形式や時期はいくらか変化するとしても、大企業がこの慣習をそれ自体として廃止することはないでしょう。
ところで、10月1日というのは、多くの大学において、秋学期の第1週または第2週に当たります。(大抵の場合、国立大学の秋学期は10月1日に始まります。)当然、4年生が出席する授業もまた、普段のとおりに行われます。したがって、大学にとり、企業の内定式というのは、大変に迷惑なイベントであることになります。
自分が入る予定の会社の内定式が10月1日に行われ、かつ、当日の同じ時間帯に出席しなければならない授業があるとき、学生はどちらを優先すべきであるのか。この問に対し、大学当局および大学の教師は、「学生は内定式よりも授業を優先しなければならない」と答えます。
学生が授業を優先すべき理由は明瞭です。そもそも、学生は、就職先が事実上決まっているとしても、大学に籍を置く「大学生」であり、大学における学業を優先する義務を負っています。もちろん、その学生は、内定式を実施する企業と雇用契約を結んだ従業員ではなく、企業には、学生を指示や命令に従わせる権利などありません。学生に指示したり命令したりする立場にあるのは、企業ではなく大学の方なのです((企業が学生について権利を持っていないのは、内定式だけではありません。面談、面接、インターンシップ、説明会等、企業が実施するあらゆるイベントついて事情は同じです。))。
実際には、内定式に出席したいという学生の意向を受け、当日の授業を休講にしたり、学生の欠席を認めたりする教師がいないわけではありません。これは、それぞれの教師の裁量の範囲でしょう。ただ、私自身は、自分の授業と内定式が重なったときには、内定式への出席を理由として授業の方を欠席することを認めないことにしています。(そもそも、私は、少人数の演習については、理由の如何にかかわらず学生の欠席を一切認めていないのですが、)健康上の理由で授業を欠席した場合は、事後に診断書を提出してもらう、と学生には通告してあります。