今日、次の記事を読みました。
私は、飛び入学のあとに中退した学生に高卒の資格を与えることには、いくつかの理由から全面的に反対します。この措置は見当外れであると私は考えています。(また、これを答申した中教審も、制度の趣旨を根本的に誤解しているようです。)
飛び入学では、各大学が入学を希望する志願者を個別に選考し、合否を決めます。したがって、選考の結果が通用するのは、この志願者の選考の主体となった学部(学科)の内部のみであり、同じ大学でも、他の学部(学科)では通用しないと考えるのが自然です((つまり、この制度を利用して入学した学生は、入学後、選考の主体となった学部(学科)を離れ、転学部(転学科)することが認められないのが普通です。))。ある学部(学科)に入学し、そのまま卒業するという約束のもとで、志願者のロイヤルティを担保に高卒の資格を持たないままの入学が特別に認められているのであり、飛び入学において与えられた入学資格には「互換性」がないはずなのです。
したがって、本来ならある大学・学部・学科に限定した形で与えられたはずの——互換性のない——入学の事実にもとづいてユニバーサルな「高卒資格」を与える省令は、一種の「学歴ロンダリング」を容認するものであることになります。また、今回の省令により、各大学は、みずからにとっては「下級学校」に当たる高等学校の卒業資格を入学者に勝手に付与することができるようになるわけであり、これは、形式的に大いに問題があるように思われます((今回の文部科学省の省令のような措置を認めるとは、ある大学が入学志願者に対して与えた入学許可が、当の大学限定のものではなく、ユニバーサルなものであると認めることを意味します。))。
たしかに、飛び入学した大学を中退し、そのまま別の大学を受験し直すことが可能となるなら、この制度の利用は増加するかも知れません。しかし、「合わなければ退学して別の大学を受け直す」選択肢がある志願者に対し大学がロイヤルティを期待することができるのかどうか、これは微妙であるように思われます。
飛び入学後に中退した学生に高等学校の卒業資格を与えるべきではないと私が考えるのには、他にも理由があります。そもそも、中学校以上の学校の卒業資格がない人々のために、わが国は、高卒認定(=高等学校卒業程度認定試験)という選択肢を用意しているからです。飛び入学後に不幸にも退学を余儀なくされた者には、おかしな省令など作る代わりに、高卒認定試験の受験を案内すればよいだけなのです。さらに万全を期して、飛び入学の制度を利用する志願者に対し、中退する可能性があるならあらかじめ高卒認定試験で必要な科目を受験しておくよう指導してもかまわないはずです((かつての大学入学資格検定とは異なり、高卒認定試験は、高等学校に籍を置いたまま受験することができます。))。文部科学省は、みずからが整備してきた高卒認定の制度をわざと空洞化させているように見えます。
多くの大学は、高等学校に2年間以上在学していることを飛び入学への出願資格としているようです。そして、高等学校で2年生の終わりまで学んでいる生徒なら、高卒認定に合格するために追加で受験しなければならない科目は2科目か、多くても3科目にすぎないでしょう。高卒認定で出題されるのは基礎的なレベルの問題ばかりですから、飛び入学を認められる程度の学力があるなら、合格は特に困難ではないように思われます。
たしかに、かつての大学入学資格検定は、「大学入学資格」を与えるものであり、「高等学校卒業」を認定するものではありませんでした。また、受験しなければならない科目が最大16科目であること、高等学校に在学したままでは受験することができず、受験のために高等学校を退学しなければなりませんでした。このような制約をすべて撤廃することで生まれたのが「高等学校卒業程度認定試験」であり、この制度を作ったのは、他ならぬ文部科学省です。文部科学省は、余計な省令を作ることではなく、みずからが作った制度の活用法を検討するのに時間を費やすべきであると私は考えます。