Home 高等教育 教室の黒板(またはホワイトボード)の文字を消すのは誰の仕事か

教室の黒板(またはホワイトボード)の文字を消すのは誰の仕事か

by 清水真木

 昨日、次のような文章を書きました。

 以下は、これに関連する話です。

 「教室というのは教職員と学生の共有財産なのだから、暗い教室に一番乗りしたら、授業を受ける環境を整えるため、まず照明をつけることは学生の権利であり義務でもある。」幸いなことに、これは、学生には比較的理解しやすい真理であるようです。私は、2022年現在もなお、この点に関し、学生の啓蒙を諦めていません。

 しかし、これ以外に、教育に関して諦めてしまったことはいくつもあります。以前に書いたように、私は、さらなる勉強のための参考文献を示すことを諦めました。

 同じように、「ノートのとり方」に関する啓蒙も諦めました。

 10年ほど前まで毎年、私は、講義科目の初回の授業において、ノートはどのようにとるべきであるのか、そして、それはなぜであるか、という点を、「教室でノートをとるとはそもそも何をすることか」という問題に関連させながら丁寧に説明していました。しかし、私がノートのとり方の説明を始めるとともに教室から出て行く学生が年を追うごとに多くなってきたため、現在では、ノートのとり方は説明していません。

 これに加え、私は、次の点についてもまた、学生の認識をあらためさせることを諦めかけています。すなわち、「授業開始前、黒板(またはホワイトボード)に前の授業の板書が残っているとき、これを消すのは学生の仕事である」という点です。

 最近では、授業のために教室に行き、黒板(またはホワイトボード)に前の授業の板書が残っているのを見る機会は滅多にありません。どの大学も、教員に対し、教室を出る前に板書を必ず消すようしつこく注意喚起しているからです。それでも、ごく稀に、前の授業の板書がそのままになっていることがあります。

 このようなとき、私は、板書を消す学生が現れないかどうかしばらく待ち、しかし、誰も板書を消そうとしないときには、教室の前の方に坐っている学生を指名して板書を消させることにしています。(私は、自分では消さないことに決めています。)そして、授業開始後、次のように説明しています。

 教室に入り、黒板(またはホワイトボード)に前の授業の板書が残っているのを見つけたら、これを授業開始までに消しておいてください。これは、教師の仕事ではなく、学生の仕事です。

 みなさんは、建前としては、先生に「教えてもらう」ために教室に来ていることになっています。だから、授業の開始前に「教えてもらう」のにふさわしい環境を整えておくのは、みなさんの仕事です。前の授業の板書が残っていても、私はこれを消しませんし、前の授業の板書をみなさんが消すまでは、授業を始める環境が整っていないと判断し、授業を始めません。

 なお、授業終了後、先生の代わりに板書を消すというのも、義務とは言えないかも知れませんが、授業へのコミットメントとして大変に好ましい作業であると言うことができます。

 前の授業の板書を消すのが学生の仕事であるというのは、少なくとも1990年代前半までは常識だったはずです。私自身、学生として、板書を何回も消してきました。なぜこの常識が姿を消してしまったのか、私には不思議で仕方がありません。

 実際、前に書いた暗闇の場合とは異なり、黒板(またはホワイトボード)について学生を文明化するのは難しいようです。私は、上記のような説明を受け、前の授業の板書が残っているときに黒板(またはホワイトボード)を授業開始前に自発的に清拭した学生を、過去27年間で1人しか知りません。

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