Home 世間話 いわゆる「選択的夫婦別姓」制度に反対する(後篇)

いわゆる「選択的夫婦別姓」制度に反対する(後篇)

by 清水真木

※この文章は、「いわゆる『選択的夫婦別姓』制度に反対する(前篇)」の続きです。

 続いて、第2に、「選択的夫婦別姓」制度は、民法の2つの条文と戸籍法の1つの条文を変更するだけで導入することが可能です。しかし、その制度の運用は、現在の「夫婦同姓」制度とくらべ、はるかに複雑なものとなります。制度に細かい手直しが施されるたびに、手続きが変わり、公文書の書式が変わり、民間企業、学校、病院などにおける運用が変わります。予測不可能な混乱が何十年にもわたって続くでしょう。また、混乱を防止し回避するためには、全国民が膨大なコストを負担しなければならなくなるはずです。(行政の負担という点でもっともよくないのは「通称」使用の範囲の拡大です。)

 私自身は、現在の「夫婦同姓」を基本的に支持しますが、実際的な不都合があることもよく承知しています。(そもそも、私の母がこの制度の被害者でしたから、「夫婦同姓」が現実の社会生活において障碍になりうることは、私にもよくわかります。)

 したがって、現在の制度を変えるのなら、「選択的」ではない単純な「夫婦別姓」の制度とするのが適当であると私自身は考えています。改正しなければならない法律の範囲は「選択的夫婦別姓」の場合よりも広くなるかも知れませんが、それでも、「夫婦別姓」、つまり、「婚姻」の問題と「氏」の問題を完全に分離してしまうなら、運用という点ではむしろ単純になるはずです。(明治以前に戻るだけですから、完全に新しい試みというわけでもありません。)

 もちろん、たとえば贈与、離婚時の財産分与、あるいは、相続において配偶者に認められた優遇などは、夫婦が「同姓」であることの制限に対する補償という意味合いがあるはずですから、「夫婦別姓」が原則となるなら、これらの措置もまた、原則としてすべて廃止されるのが適当です。たとえば、ある男性の死後にその財産を優先的に相続することができるのは(被相続人と姓を同じくする)子どもであり、姓を異にする配偶者にその権利が与えられてはならないことになります。

 したがって、夫婦がどうしても「同姓」を希望するなら、その場合に「通称」の使用を認めればよいように思われます。夫婦別姓が原則であるなら、どちらかの氏を通称として用いなければならないという制限はなく、完全にオリジナルな「屋号」のようなものを通称として登録してもかまわないことになるでしょう1

 そもそも、現行の「夫婦同姓」のもとでは、たとえば職場の誰か——大抵の場合は女性——が結婚(あるいは離婚)すると、本人が伝えたいなどと思っていない相手にまで、その事実が否応なく周知されてしまいます。(同じように、同じ職場の同僚が結婚(あるいは離婚)したかどうかなど知りたくなくても、情報が勝手に飛び込んできます。)現在のところ、結婚(および離婚)の事実は——結婚(および離婚)で姓を変えるのがほとんどの場合において女性である点を考慮するなら——女性については個人情報ではないことになりますが、私自身は、この点について大いに疑問を感じています。

 私は、いわゆる「選択的夫婦別姓」などという面倒な制度を導入するくらいなら、現在の制度を変えないか、あるいは、思い切って「夫婦別姓」を制度としてしまう方が、現在および未来のわが国にとって好ましいように思われます。

  1. もっとも、あまり頻繁に変更しないよう、手続き上のそれなりのハードルは必要になるとは思いますが。 []

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