Glossikaの場合、(画像と表現を照合させる仕組みはなく、代わりに、)簡単な文とその訳文のペアを丸ごと覚えさせながら、入力と発音を繰り返させる作業ばかりとなります1 。
これは私の想像になりますが、これらのアプリやサービスが、単語や文の単純な暗記をユーザーに要求するのは、当初想定されていたのが、西洋近現代各国語のネイティブスピーカーが、同じ西洋近現代各国語を学習する場面であったからでしょう。 たしかに、たとえばスペイン語とイタリア語、英語とオランダ語の言語間距離は非常に小さく、単語や表現の対応関係を記憶し、発音を訓練するだけで、(高度なレベル、あるいは、知的なレベルについてはともかく、)日常生活において最低限必要なレベルの語学力なら簡単に身につけることができるはずです。文法の基本的な仕組みが同じであるなら、単語と発音を優先的に覚える方が効率的であるに決まっています。
実際、私が知るかぎりでは、どのアプリでも、あるいは、どのサービスでも、記憶すべきものとして提示される単語、表現、センテンスは言語によらず同じです。たとえば、ドイツ語学習者も、ロシア語学習者も、アラビア語学習者も、ヒンディー語学習者も、たとえば「その会社はあのビルの3階にあります」という文を——それぞれの言語においてこの文が持つ文法的な特性とは関係なく——発音とともに丸暗記することになります。
しかし、対応関係を丸暗記させるこの方式は、日本人のようにまったく異なるタイプの文法を持つ言語のネイティブスピーカーには通用しません。der、die、dasなどが冠詞であることをさしあたり知らないまま、あるいは、ich fahre du fāhrst er fāhrtと動詞が変化するのを知らないまま、ドイツ語の文を覚えるのは、苦痛と非効率以外の何ものでもありません。
また、言語を文化の一部と見なしてこれに接近しようとする人々にとっては、「彼は今、席を外しています」「窓口は午後5時に閉まります」などの「無国籍的」な文ばかりを暗記することは、これもまた、相当に苦痛であるに違いありません。
日本人にとり、外国語を勉強するのなら、書物あるいは日本人向けの教材を用い、初歩的な文法から始めるのが捷径であると私は考えます。他の言語のネイティブスピーカーとは異なり、ほかの言語との距離が大きく、日本語文法の知識は、他の言語の文法構造を類推するのにほとんどまったく役に立たないからです。外国由来のアプリやサービスは、外国人が外国語を勉強するためのものであり、日本人がゼロから外国語を勉強するのには不向きであることは暁であるように私には思われるのです。
- GlossikaもBusuuも、インターフェイスは一応日本語化されていますが、残念ながら、その完成度は決して高くありません。(不自然な日本語が目立つということです。)私の知るかぎり、もっとも完全に日本語化されているのはDuolingoです。 [↩]