昨日、次の記事を読みました。
そもそも、500個もの柏餅の予約を当日の午後になってキャンセルするというのは、明らかな犯罪——民法上の契約不履行——です。次の記事が強調しているように、この話を美談で終わらせてはならず、店主は、ドタキャンした客に対し損害賠償を請求すべきでしょう。似たような事件が繰り返し発生することによる社会全体の経済的な損失は計り知れないものになるはずだからです。
もちろん、この法的措置は、当の和菓子店の損失の回復を目的とするものであるばかりではありません。これは、店主によるツイッターへの投稿を目にしてわざわざ——5月5日の午後になって——柏餅を買うために店を訪れた人々に対する道徳的責務でもあるのです。(弁護士に依頼すれば、電話番号をもとに予約客を特定してもらうことができるはずです。)
むしろ、法的措置を講じることなくこの問題を放置すると、世間からは、今回の件が店主の自作自演であることを疑われかねないように思われます。個人経営の和菓子屋が、一度も来店したことがない新規の客の注文、しかも、キャンセルされた場合に店頭で捌ききることのできないほどの大量の注文を電話で受けるなど、誰が考えても常識に反することだからです。
ところで、私自身は、これまでの人生において、自分の個人的な都合でドタキャンしたり、無断キャンセルしたりしたことはありません。(予約の時間を間違えたことが何回かあるだけです。)また、キャンセルに関する明確なルールが事前に提示されず、かつ、キャンセルにより損害が発生する可能性があるときには、先方の感じがよほど悪くないかぎり、私の方から賠償を申し出ることにしています。私は、これが客たるものの義務だと考えています。
ところが、現実には、損害賠償を請求される危険がなければ、ためらうことなく無断キャンセルを実行する日本人が多いようです。私が最近になって知ったのは、タクシーを注文するアプリが原因で発生する膨大な件数の無断キャンセルの事例です。「複数のアプリを使って同時に複数の会社にタクシーを注文し、もっとも早く到着した車に乗る」という行動が原因なのでしょう。
もちろん、素朴に、かつ、常識的に考えるなら、客がタクシーの配車を依頼し、タクシー会社がこれを引き受けた時点で、タクシー会社と客のあいだには次のような関係が成立します。すなわち、一方において、タクシー会社は、車を確実に手配する義務を負い、他方において、客は、タクシー会社が手配した車に乗る独占的な権利を手に入れる代わりに、注文した自動車の到着を待つ義務を負うことになります。
タクシーを注文したら、「空車」のサインのあるタクシーが目の前を通っても、これには乗らず、注文した車が到着するまでじっと待つこと、これは、人間にのみなしうる行動です。そして、タクシー会社がアプリによって提供するサービスはすべて、すべての客が約束によってみずからを拘束する能力を具えていることを前提とするものであるはずです。タクシー会社との約束を守ることができない客、あるいは、最初から約束を守るつもりなどないのにタクシーを注文するような客は、この意味において、もはや人間に分類されるのに必要な資格を満たさない動物的な存在であると考えるのが自然です。そして、複数のアプリを使って同時に複数の会社にタクシーを注文するという動物的な行動により、社会が全体として共有すべきタクシーという名の資源は、完全に利己的な仕方で浪費されることになります。
もちろん、短期的に見るなら、このような行動は、それなりに合理的であるかも知れません。しかし、長期的には、そのコストは、社会全体に押しつけられます。たとえば、無駄な配車のコストが料金に加算されたり、タクシーのサービスの質が低下したりすることにより、タクシーという資源が、これを本当に必要とする人々に対し、本当に必要とするときに配分されなくなってしまうはずです。