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情報のゴミ箱について

by 清水真木

「オンラインブックマーク」あるいは「ソーシャルブックマーク」と呼ばれるウェブ上のサービスがあります。代表的なのはPocketとInstapaperです。両者のあいだには、機能に若干の違いが認められますが、ブックマークをオンライン上で管理し、任意の端末を使ってこれをあとで読むことができる点では同じです。

このようなサービスには相当な需要があるのでしょう、上に挙げた2つのサービスのうち、Instapaperはユーザー数を公表していませんが、Pocketの方は、1000万人をはるかに超えるユーザーを抱えているようです。

オンライン上にブックマークを保存し共有するこのようなサービスが平均的なユーザーのあいだでどのように使っているのか、私は知りません。ただ、ここに蓄積された情報は、つねに有効に使われているとはかぎらないのではないかと私は推測しています。

というのも、少なくとも私の経験の範囲——私は、両方のサービスをそれなりの期間にわたり使ってみました——では、「あとで読む」ためにブックマークされたものは、「あとでも読まれない」ことの方がはるかに多いからです。

そもそも、重要なウェブページなら、私たちは、「あとで読む」サービスを利用して保存するのではなく、「すぐに読む」はずです。そして、保存するのは、ページのURLではなく、ページ全体のデータであるに違いありません。(ウェブページをあとから閲覧することができるように直接アーカイブする機能は両方のサービスにありますが、そのデータを取り出すことはできません。)

私は、PocketとInstapaperの両方のアカウントを持っています。そして、いずれのアカウントでも、過去に保存した大量のウェブページのURLが見返されることもなく放置されています。これは、「情報のゴミ箱」であると言うことができます。

とはいえ、情報には、その性質上、何らかの「ゴミ箱」がどうしても必要であり、したがって、このような使われ方は決して想定外ではない思われます。

大抵の場合、食物には賞味期限、あるいはこれに似た消費のデッドラインがあります*1。食物は、賞味期限を過ぎると同時に、食物としての性格を少しずつ失い始め、これと引き換えに、ゴミとしての性格を少しずつ獲得して行きます。最終的に、食物は、当初の性格を完全に喪失し、同時に、正真正銘のゴミとなって廃棄されます。食物は、時間の経過とともに食物ではない何ものかに変化して行くのであり、この意味において、食物の「捨てどき」は明瞭であると言うことができます。

これに対し、食物とは異なり、情報には賞味期限がありません。たしかに、当の情報が獲得されたときに担っていた役割は、時間の経過とともに失われることがあります。しかし、これは、情報が位置を占める文脈の変化によるものにすぎません。情報は、時間の経過とともに新たな意味を獲得して行くだけであり、時間がいくら経過しても、情報が情報とは別の何ものかになるわけではないのです。

情報、特にデジタル的な情報は、捨てる手順を決めないかぎり、増えることはあっても、自然に減ることはありません。

私自身は、PocketやInstapaperに保存されたブックマークを定期的にまとめて削除しています。もちろん、削除するとき、ブックマークされたページを確認することはありません。

*1:食品の中には、砂糖、塩、アイスクリームのように、賞味期限、消費期限、品質保持期限などを表示する義務が課せられていないものがありますが、これは例外です。

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