伝統的論理学におけるもっとも重要な課題は、間接推理すなわち三段論法の形式の分類です。
三段論法とは、3つの名辞を用いて作られた3つの文の組み合わせからなる推理のことです。すなわち、大概念、小概念、媒概念の3つをそれぞれ主語と述語に持つ大前提、小前提、結論の3つの文の組み合わせが「三段論法」と呼ばれます。これら3つの名辞からなる3つの文の組み合わせは、すべて数え上げると256通りありますが、これらのうち、推理として形式的に妥当な組み合わせ(=内容によらずつねに真であるもの)は19通りのみであると一般に考えられています。
そして、この三段論法のさまざまな形式のうち、もっともよく知られているのが、伝統的に「定言的三段論法第1格」と呼ばれてきたものです。「三段論法」という言葉とともにただちに例としてあげられる以下の推理は、定言的三段論法第1格に当たります*1。
- 大前提:すべての人間は死すべきものである。(Omnes homines mortales sunt.)
- 小前提:ソクラテスは人間である。(Socrates homo est.)
- 結論:ソクラテスは死すべきものである。(Socrates mortals est.)
このようなタイプの推理では、結論が真であるためには、前提もまた真であることが必要です。上の例の場合、「ソクラテスは死すべきものである」という文が真であるためには、「すべての人間は死すべきものである」と「ソクラテスは人間である」が真でなければならないのです。特に、大前提が真であることが保証されなければ、これは、推理にすらなりません。(後篇に続く)
*1:「すべての人間」が媒概念、「死すべきもの」が大概念、「ソクラテス」が小概念です。三段論法は、大前提と小前提が媒概念を共有し、これを消去することで結論を導き出す推理であると言うことができます。というよりも、実際に形式的に妥当な推理を作るときには、まず結論に当たる文を用意してその主語と述語を大概念と小概念に振り分け、その上で、このそれぞれと結びつけることで大前提と小前提を作ることができるような媒概念を発見する、という手順で操作が行われます。この例で言うなら、「ソクラテスは死すべきものである」を証明するために、「ソクラテス」を要素とする適切な集合を発見することが重要となります。(「すべての有機体」や「すべての質量を持つ存在」は適切な媒概念とはなりません。)この意味において、三段論法は発見の論理であると言うことができます。