今から10年以上前、自宅の近くを散歩していたとき、ある住宅の塀に「石敢當」と縦に刻まれた薄い石の板が貼り付けられているのを見つけました。(東京都杉並区です。)
石敢當(いしがんとう)とは、主に沖縄に見られる石の魔除けです。沖縄では、丁字路や三叉路の突き当たりに置かれた石に「石敢當」の三文字が彫られていることが多いようです。
沖縄の民間信仰に関する私の貧弱な知識によれば、沖縄には、道路を直進することしかできない——驚くほど融通がきかない——謎の魔物がいるようです。この魔物は、丁字路を曲がることができないため、道路を直進してそのまま突き当たりにある家に入り込んでしまうと考えられています。そこで、突進してきた魔物を衝突させて粉砕し、家を魔物から保護するために、丁字路の突き当たりに石敢當を設置することが習慣になっていたようです。
実際、私が近所で見つけた「石敢當」というプレートもまた、丁字路の突き当たりに貼り付けられていました。
その後、職場の近く(東京都世田谷区)を歩いていたとき、石敢當を見つけました。これは、塀に貼りつけられたプレートではなく、地面に置かれた石に「石敢當」と刻まれたものでした。
なお、石敢當に関する私の知識はすべて、以下の本に由来するものです。
今から5年くらい前、沖縄を訪れたとき、本物の石敢當を見ることをひそかに期待していました。何と言っても、沖縄は「石敢當の本場」ですから、どの交差点にも必ず石敢當があるに違いないと勝手に想像していました。
たしかに、沖縄を実際に訪れ、那覇市、宜野湾市、糸満市などの市街地を歩いたときには、それなりの数の石敢當が見つかりました。しかし、その数は、「時間をかけて歩き回らなくても見つかる」程度であり、いたるところに石敢當があるというほどではありませんでした。(土産物屋の店頭は除きます。)
沖縄県の魔物の人口(?)がどのくらいであるのかわかりません。ただ、魔物を粉砕するために実際に街角に設置された石敢當の数をもとに計算すると、魔物だらけというわけではないのかも知れません。
それでも、沖縄県では、途方もない数の魔物がこれまで石敢當に衝突して粉砕されてきたはずです。石敢當を見かけるたびに、私は、「魔物も少しは学習して、角を曲がることを覚えればよいのに、魔物には『経験から学ぶ』能力がないのだろうか」などと、余計なことを考えました。
2 comments
(id:naoko-alexandra)さん。
丁寧な御指摘ありがとうございます。
石敢當が中国に起源を持つことは、私も、事実としては承知していたつもりでした。
ただ、石敢當に関する日本語の文献のうち、素人が簡単に手にとることができるものは、その大半が沖縄の専門家の手になるものです。そして、そのせいなのか、私が知るかぎりでは、「起源は中国にあるが、沖縄以外の日本国内の石敢當は基本的に沖縄由来」という前提で書かれているのが普通です。
私自身、沖縄に対する興味の延長上で石敢當を知ったため、このストーリーに知らないうちに引きずられてしまっていたようです。ことによると、東京で見つかる石敢當も、その一部は、中国や台湾から、沖縄を経由せずに移植されたものなのかも知れません。
もとは中国の南方から沖縄にやってきた習慣かと思います。台湾、とくにその離島では、沢山の石敢當を見ました。