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「日本海デビュー」した話

by 清水真木

 今年の4月1日から4日まで、私的な旅行で金沢を訪れました。

 出発の前日の3月31日まで、私は、所属する学部の教務主任でした。(最終日の午後まで雑用が入っていました。)そこで、頭を切り替えるつもりで、新年度の最初の4日間、東京を離れることにしたのです。(「不要不急」の旅行以外の何ものでもありません。)

 もっとも、旅行の計画を立て、ホテルを予約したのは去年の秋であり、当然のことながら、そのころにはまだ、今年の4月に新型コロナウィルス感染症の流行がどのような状況になっているか、予想は不可能でした。もちろん、緊急事態宣言でも出ていたら、旅行はキャンセルするつもりでした。

 しかし、幸いなことに、4月は、2回目の緊急事態宣言と3回目の緊急事態宣言のはざまに当たり、旅行を明確に妨げるものはありませんでした。

 また、さらに幸いなことに——金沢では珍しいらしいのですが——旅行中ずっと好天に恵まれました。折りたたみ傘をいつも携行していたのですが、取り出すことは一度もありませんでした。往復の北陸新幹線はガラガラ、兼六園や金沢城の桜はちょうど満開、人出も大したことはなく、実に快適な旅行でした。(ただ、金沢市内を歩き回っていて、市の中心部の「しいのき緑地」にたまたま足を踏み入れたところ、そこで開催されていた大規模な青空市のものすごい人混みに急に巻き込まれました。屋外とはいえ、このときには、ちょっとした恐怖を感じました。)

 ところで、この旅行中、ある「初体験」がありました。私は、今回、生まれて初めて日本海を直に目にしたのです。私は、重度の出不精で、必要に迫られないかぎり遠出しません。首都圏の外に出ることなど、数年に1度しかありません。それでも、太平洋は何回か眺めたことがあります。(東京に住んでいるくせに、「何回か」しか見たことがないのか、とあきれる人がいるかも知れません。もっともな感想です。)

 一昨年の夏、大学の所用で松江と米子に出張し、このとき、私は生まれて初めて「日本海側」の地域に足を踏み入れました。しかし、残念ながら、私が出張で立ち寄ったのは、空港と駅の周辺であり、日本海そのものを眺める機会はありませんでした。

 北陸新幹線では、富山県内で車窓から日本海が遠くに見える区間があります。私は、極端な経験主義者ではありません。したがって、「見たことがないものは存在しない」などということを主張するつもりはありません。それでも、車窓から日本海を初めて目にしたときには、「日本海って実在するんだ」という、今から思うと意味不明な感慨が心に浮かびました。(その後、旅行中に、もっと近くから——つまり、海辺に立って——日本海を眺める機会があり、本格的に「日本海デビュー」することができました。)

 なお、完全にどうでもよい話ですが、私は、北海道と四国には足を踏み入れたことがありません。

 昔、広島にいたとき、一度だけ、学生の遠足を引率して大三島まで行ったことがあります。大三島は、行政区画としては愛媛県今治市に属していますが、「四国」ではないのではないかと思います。

 北海道については、近づいたことすらありません。これまでの人生において、北海道に行く用事がなかったからです。(寒さが苦手、ということもあります。)

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