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英語のチラシを読む力

by 清水真木

 昨日、次のような文章を投稿しました。以下は、その補足です。(下に続く)

 TOEICでは、英語のチラシや道路工事のお知らせを読んでそこから適切な情報を抽出することを求めるような問題が出されることが少なくありません。しかし、私は、あのような問題に何か意味があるようには思われません。

 第1に、そもそも私たちは、視界に飛び込んでくる日本語のチラシすら丹念に検討することは稀であるのに、英語のチラシを時間をかけて読む必要など、英語圏で暮らすのでなければ、生涯に1度もないとしても不思議ではありません。

 第2に、英語のチラシを素早く読んでハウスクリーニングを電話で注文することができるようになるとしても、英語を勉強しなければ得られないような仕方で経験が拡張されるわけではありません。

 たとえばジョージ・エリオットの大作『ミドルマーチ』――大変によろこばしいことに、ごく最近、新しい日本語訳が刊行されました――やハーマン・メルヴィルの『モービー・ディック』を繙くことにより、私たちは、(英語圏の分厚い文化的な伝統にみずから参入して)視野を広げ、自分の目に映る世界に奥行きを与えます。これが「経験の拡張」の意味です。したがって、このような文学作品を読むのに必要な語学力の獲得を目指して行われる英語の学習には、他には代えられないような意義が間違いなくあります。

 これに対し、チラシを読んでハウスクリーニングを注文することには、このような効用は認められません。日本人なら誰でも、日本語が普通に使われている環境において、日本語を使って同じことができるからです。

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