オンライン授業と対面による授業とどちらがラクか。この問いに対する私の答えは、「現在の本務校に関するかぎり、オンライン授業の方が圧倒的にラク」です。また、ただ「ラク」であるばかりではなく、時間と体力を有意義に使うことができる点でも、オンライン授業の方がメリットが大きいと私は考えています。
目の前にいる学生の関心や学力にもよりますが、少なくとも現在のところ、大教室で行われる授業には「学生の取り締まり」が欠かせません。私語を禁止し、スマホをいじるのを禁止し、飲食を禁止し、内職を禁止する……、このようなルールを作って教育にふさわしい環境を維持することは教師の当然の責務ですが、この責務は、ルールを確実に守らせるというさらなる責務をともないます。というのも、ルールを提示するだけで、これに違反した学生を取り締まらなければ、誰もこのルールを守らなくなり、教室の秩序を維持することができなくなる危険があるからです。
具体的には、授業時間中、学生の様子をたえず観察し、たとえばスマホをいじっている学生を後ろの方に見つけたら、教壇から飛び降りて学生のところに駆けつけてスマホを没収し、内職している学生を見つければ、机の上にあるもの一式を没収します。(宮沢賢治の何かの詩を連想させます……。)
2019年度までの数年間は、低い出席率にもかかわらず、毎週平均1回は学生のルール違反を見つけて減点していたように思います。当時は、授業するために取り締まっているのか、取り締まるために授業しているのか、もはやわからない状態であり、毎回、授業開始前には胃が痛くなり、授業が終わると、口がきけないほど疲労困憊していました。(また、同じ教室で他の学生が取り締まられているのを見ても、不思議なことに、学生は一向に「学習」せず、同じようなルール違反を繰り返していました。これには強い徒労感を覚えました。1回の授業で5人の学生からスマホを没収したこともあります。)
2019年度までは、学生の取り締まりにより、本来なら授業の充実に費やされるはずの時間と体力の相当な部分が奪われていました。
ところが、昨年度からは、授業がオンラインで行われることになり、学生の取り締まりから解放されました。そして、その分、教材の内容を充実させたり、小テストを工夫したりする余裕が生まれました。授業の準備は、決してラクではありませんが、それでも、教室での学生の取り締まりにくらべれば生産的な作業であると私は考えています。
「学生の顔が見られない」というのは、新型コロナウィルス感染症の流行以前でも同じでしたし……。