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東京のディープ・サウスについて

by 清水真木

私の自宅は、東京都杉並区の中心付近にあります。杉並区の形状はほぼ六角形のため、その中心に住んでいると、杉並区の外に徒歩で出るのは大変です。どの方向に行くとしても、区界に辿りつくには少なくとも30分は歩きます。

当然、交通はいたって不便――「至便」の反対――です。私の自宅までは、最寄り駅である荻窪駅と高井戸駅のいずれからも徒歩で20分かかります。さらに、最寄りのバス停すら遠く、徒歩5分では辿りつけません。

荻窪駅にバスで行くつもりで自宅を出ると、バス停に到着した時点で全行程の3分の1は歩いてしまったことになります。そのため、バスには乗らず、そのまま駅まで歩いてしまうことは少なくありません。(実際、道路が渋滞しているときには、バスよりも徒歩の方が早いことすらあります。)私の自宅周辺は「陸の孤島」であると言うことができます。

そして、このような地域に運転免許も自転車も持たずに長く暮らしているせいか、私は相当に出不精です。必要に迫られないかぎり旅行しないのはもちろん、都内ですら、あまり出歩きません。

よく知られているように、東京の西半分では、東西方向の移動手段が充実しているのに反し、南北方向を結ぶ鉄道の路線が1つもありません。そのため、都心方向には出かけても、私の自宅から見て南の方、つまり世田谷区の南半分、目黒区、品川区、大田区、および港区の一部のあたりに足を踏み入れることはほとんどなく、当然、土地勘もありません。乗り換えの手間がかかるからです。たとえば、私の自宅から世田谷区の用賀までは、自動車で環状八号線を行けば15分から20分程度しかかかりません。しかし、公共の交通機関を使う場合、渋谷まで出て東急田園都市線に乗り換えなければならず、少なくとも1時間はかかります。

「東京の南の方」という表現を目にして私が想起するのは、23区内のうち、京王線と小田急線に挟まれたエリアです。小田急線よりも南は、私にとっては、「東京のディープ・サウス」であり、(その地域に住んでいる人には大変に失礼ながら)「最果ての地」「暗黒大陸」という印象しかありません。

以前、駒澤大学に半年、東京工業大学に半年、慶應義塾大学に2年間、非常勤で行っていたことがありますが、それぞれの最寄り駅に降り立つたびに「はるばる遠くまで来たものだ」という感慨を覚えていました。

もちろん、事実はおそらく反対なのでしょう。つまり、私が陸の孤島に住んでいるせいで、辿りつくのに時間がかかる場所が「最果ての地」であるように感じられるだけであるに違いありません。

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