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社会科学と自然科学に分類される研究は例外なく、(「基礎研究」などと呼ばれているものを含め、)「現象が再現される条件」つまり「現象の作り方」の解明を目標とします。だから、これらが「役に立つ」ことは最初から約束されているわけです。
しかし、この基準は人文科学には適用されません。人文科学は「現象の作り方」の解明を目指すものではなく、これに携わる主体の「超越」の試みだからです。
したがって、人文科学は、厳密には、「何の役にも立たない」のではなく、「万人の役に立つとはかぎらない」「何の役に立つのか事前にはわからない」だけです。決して無駄なのではありません。
つまり、「人文科学は何の役に立つのか」という問いに一般的な形で答えられないところに人文科学の存在理由があるのであって、「万人の役に立つ人文科学」など、もはや人文科学ではありません。
人文科学が普通の意味で役に立たないことは間違いありません。社会科学や自然科学と張り合ってことさらに「役に立つ」ことをアピールすることは、人文科学の自己否定です。社会科学や自然科学のような「しもじも」は視界から追い出して超然としているのが人文科学にはふさわしいと私は思います。