※この文章は、「沖縄の土産物について(その1)」の続きです。
あらたまった場面に沖縄関係の手土産を何か持って行くよう求められたら、沖縄について大した知識があるわけではない(私のような)旅行者の多くは、「ちんすこう」を選ぶでしょう。「ちんすこう」は、土産物として特に珍しいものではなく、それどころか、沖縄由来のものとしてはむしろ地味であるかも知れません。それでも、これは、琉球王朝時代に考案され、当初は、それなりに身分の高い人々しか食べることができなかった菓子であり、このような来歴を考慮するなら、(味に関する評価は区々であるとしても、)少なくとも「格調」という点では、どこに出しても恥ずかしくないフォーマルな菓子であると言うことができます。
しかし、残念なことに、少なくとも食品に関するかぎり、沖縄には、この「ちんすこう」に匹敵するもの、少なくとも、特に沖縄に詳しくはない人々があらたまった場面で受け取って違和感を覚えないようなものが多くありません。(あるとしても、その大半は、沖縄県外に土産物として発送するような性質のものではありません。)
私自身、沖縄を初めて訪れたとき、土産物に非常に悩んだことを憶えています。よほど親しい相手なら、サーターアンダーギーでもアイスクリームでも、あるいは、もずくでもルートビア(!)でもかまわないのかも知れませんが、必ずしも親しくない相手に贈る場合、選択肢はおのずから限定されます。私は、散々調べ、散々迷った挙げ句、何人かの知り合いには「きっぱん(橘餅)」を送りました。
この「きっぱん」もまた、「ちんすこう」と同じように、琉球王朝時代に起源を持つ伝統的な菓子であり、かつ、「ちんすこう」とは異なり、「きっぱん」には稀少性があります。「きっぱん」の専門店は、那覇市内に1店舗があるだけであり、商品の一部は、この店に実際に足を運ばなければ購入することができないからです。沖縄の菓子のうち、言葉の本来の意味での「銘菓」として対外的に通用するのは「きっぱん」だけであるかも知れません。
たしかに、常識的に考えるなら、あらたまった場面における手土産としてサーターアンダーギーは明らかに不適切であり、相手に対する失礼に当たります。しかし、「とらや」の羊羹に相当するような菓子について、沖縄には選択肢が乏しいこともまた事実です。このような事情があるとき、それでもカジュアルな菓子を手土産として持参するなら、そこには何らか特別な意味が込められていると考えることができなくはないかも知れません。