マイナンバーカードを取得することが事実上義務になるようです。もちろん、取得をそれ自体として「義務」と定める法律はありません。したがって、マイナンバーカードを持たないことに罰則もありません。マイナンバーカードを所持していないと非常に不便になる状況を作り出すことにより、取得と所持を強く促すというのが政府の戦略なのでしょう。
個人番号が定められ、そして、マイナンバーカードの発行が始まったとき、政府は、その利便性を強調していました。つまり、マイナンバーカードは、「持っていると便利」であるとしても、所持するかどうかは任意であるという建前で導入されたものでした。
しかし、私は、当初は「持つと便利」という部分が強調されていても、やがて、マイナンバーが使われる場面がなし崩し的に増えて行き、ある日、「持っていないと不利益を被る」という話に突然すり替わるんだろうな、と予想しました。そして、マイナンバーカードの申請がが始まってすぐに申し込み、取得しました。(マイナンバーに関するかぎり、私はアーリー・アダプターであると言うことができます。)今回の義務化の話を耳にしたとき、私は、愉快ではないものを感じましたが、意外には思いませんでした。
マイナンバーカードの義務化の是非を他から切り離して独立に評価するなら、国民の大多数がマイナンバーカードを使うことが社会全体の利益になることは明らかです。このかぎりにおいて、私は、マイナンバーカードの普及、あるいは、取得の事実上の義務化には反対ではありません。
2020年春に特別定額給付金が支給されたとき、政府が莫大な費用と手間をかけて全国民にすでに個人番号を付与していたにもかかわらず、なぜこれほど手続きが混乱しているのか、私にはどうしても理解することができませんでした。全国民がマイナンバーカードを所持していれば、このような臨時の給付金ばかりではなく、納税、健康保険、年金などがすべて一元化され、公平で迅速な徴収と給付が可能になるはずです。
ただ、私自身は、マイナンバーカードをアプリとしてスマホに収めることには原則的に反対です。カードの所持よりもスマホの所持の方がハードルが低いと政府は考えたのかも知れませんが、これは必ずしも適切ではないと私は考えています。というのも、スマホというのは、誰もが所持するのが当然のもの、あるいは、所持することが好ましいものであるというわけではないからです。つまり、スマホの所持/不所持は、各人のライフスタイルに依存しているのです。それどころか、たとえば台湾のデジタル発展部の部長である唐鳳(オードリー・タン)のように、スマホの所持と使用が人間にとっても社会にとっても有害であると考える情報技術の専門家は少なくありません。
マイナンバーカードをスマホに収めることが事実上義務化されることは、スマホの所持が事実上義務化されることを意味します。そして、政府がスマホの所持を義務づけるとは、特定のライフスタイルの押しつけを意味します。スマホを媒介とする個人の生活への政府の介入は、中華人民共和国に代表される権威主義的な国家においてすでに実現されています。
また、スマホの所持が事実上義務づけられるなら、中華人民共和国のようなスマホによる監視と統制が(たとえば位置情報、送金アプリの使用状況などの政府への提供のような形で)ふたたびなし崩し的に拡大して行くのではないか、個人情報が政府によって無際限にのぞき見されるような社会が到来するのではないか、私は、このような懸念を抱いています。