※この文章は、「『洋書まつり』について(その1)」の続きです。
ところで、これまで「古書展」という名の即売会に一度でも足を運んだことがある人なら、会場で本を漁る客の大半が高齢の男性であることを知っていると思います。私の印象では、古書展の客の8割は、私と同じか、あるいはそれ以上の年齢の男性です。私が今日訪れた「洋書まつり」は、基本的に洋書のみの即売会であり、おそらくそのせいなのでしょう、和書を中心とする古書展とくらべ、女性と若者がいくらか多かったように思われます。(それでも、客の6割は高齢男性でした。)
古書業界というのは、経営者も客も男ばかりであり、女性の購買層、特に「F1」などと呼ばれる若い女性の注意を惹くことはありません1 。
「古本に興味を持つ若い女性」という言葉を目にするとき、少なくはない人が『ビブリア古書堂の事件手帖』を想起するはずです。というのも、このシリーズは、北鎌倉で古書店を営む若い女性がその特異な鑑識眼によって事件を解決する短編小説の連作だからです。(私は、ライトノベルを手にとることは滅多にありませんが、このシリーズは例外であり、既刊分はすべて読みました。)
しかし、現実には、古本に興味を持つ若い女性というものは、きわめて稀少な存在です。私の場合、男性とのあいだで古書が話題になることは稀にあっても、古書に関係することを女性とのあいだで話題にしたことは一度もありません。若い女性が古書店に通う図を心に描くことは、容易ではなく、これが、古本屋の敷居がいつまでも高いままであることの大きな原因であるように思われます。
それでも、古書店は、可処分所得が決して多いとは言えない高齢の男性を主な顧客とする地味な商売であるにもかかわらず、文化の継承と再生産に必要不可欠の装置であると私は考えています。実際、若い女性には信じられないことかも知れませんが、大規模な即売会はどこも盛況であり、デパートの催事場で開催される古書市など、場所と時期によっては、年末のスーパーマーケットと同じくらい混雑します。ブックオフに代表される——バーコードとISBNが印刷された和書のみを売買する——新古書店ではなく、古色蒼然とした古書店は、ニッチな業種として、今後も細々と続いて行くに違いありません。
- 古書をインテリアの小道具として販売する「お洒落古書店」——西荻窪駅周辺にたくさんあります——は、このかぎりではありません。 [↩]