Home やや知的なこと 問題解決を妨げるものとしての共感について(中篇)

問題解決を妨げるものとしての共感について(中篇)

by 清水真木

※この文章は、「問題解決を妨げるものとしての共感について(前篇)」の続きです。

 最近、心理学の分野では、対人関係におけるcompassionやempathyやsympathyなどの意義が強調されることが少なくありません。この点は、以前に書いたとおりです。

 社会生活において、これらの感情が重要となる場面があることは確かです。しかし、自分が身を置く社会や社会集団に属する人々が多数を糾合して具体的な問題を解決することを試みるとき、闇雲な共感や連帯は、不要であるばかりではなく、むしろ、有害ですらあります。少し具体的に説明するなら、次のようになります。

 私たちが味方を作る理由は、次の2つに区分することができます。すなわち、明瞭な輪廓を具えた問題の解決と、期限も範囲も目標も明確ではないコミットメントです。前者において必要なのは、「限定的な連携」(finite alliance) と呼ぶことができるようなものであり、反対に、後者が要求する連携には、「無限定の連携」(infinite alliance) の名を与えることができるでしょう。

 (A)後者の典型として誰の心にも最初に浮かぶのは、「家族」です。家族や友人は、特定の問題の解決のための集団ではなく、1人ひとりの責任の範囲は決められていません。つまり、メンバーは無限の責任を負います。

 そして、このような場合、compassionやempathyやsympathyなどを最大限に発揮して相手の生活に心情的にコミットすることが各人の責務となります。言葉の広い意味における「共感」にもとづくコミットメントが得られなければ、このような集団のメンバーは、底なしの不幸に陥るはずです。家族のあいだの理想の関係は、無際限の柔軟な連携であると言うことができます。

 (B)これに対し、具体的な問題の解決、具体的な目標の実現のための味方作りの場合は、事情が異なります。というのも、ここで重要なのは、ただ1点の最終的な目標の実現のために力を貸してくれる味方の数を極大化すること以外の何ものでもないからです。

 しがたって、どれほど遠くのゴールであっても、ともかくも具体的なゴールが設定されているかぎり、味方を作るためになすべきことは、(1)最終的に実現されるべき状態を、味方になってもらいたいと思う人々の数を極大化することができるよう、明確に示すこと、(2)この状態が実現されることの意義を、できるかぎり多くの関係者に受けいられるような形で設定することの2点に尽きます。この場合の味方のあいだの関係は、家族の場合とは異なり、ゴールの実現に関する理解と協力のためのfinite allianceなのです。

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