Home やや知的なこと 図書館内の防犯カメラの設置には慎重であるべきことについて(後篇)

図書館内の防犯カメラの設置には慎重であるべきことについて(後篇)

by 清水真木

※この文章は、「図書館内の防犯カメラの設置には慎重であるべきことについて(前篇)」の続きです。

 当然、——これも「図書館の自由に関する宣言」に記されていることですが——施設の存続や利用に関し外部からの干渉を受けないよう、図書館は、利用者のプライバシー保護を特に重視してきました。

 たとえば、図書館は、「自分が今何を借りているか」という利用者からの問い合わせには応じますが、「自分がこれまでに何を借りたか」を尋ねても、回答はありません。現在では、利用者のプライバシーを保護するため、帯出の履歴がその都度消去される仕組みが採用されており、答えたくても答えられないのです。

 また、私が知るかぎり、すべての図書館は、館内での写真撮影を原則として禁止しています。資料の撮影が著作権法に抵触する危険、あるいは、フラッシュを利用した撮影によって資料が物理的に傷む危険が禁止の理由に数えられることがありますが、最大の理由は、憲法第19条が保障する「思想・良心の自由」の保護であり、館内にいる利用者のプライバシー保護であるに違いありません。

 利用者のプライバシー保護について、「図書館の自由に関する宣言」には、次のように記されています。

第3 図書館は利用者の秘密を守る

  1. 読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
  2. 図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない。
  3. 利用者の読書事実、利用事実は、図書館が業務上知り得た秘密であって、図書館活動に従事するすべての人びとは、この秘密を守らなければならない。
図書館の自由に関する宣言

 「何年何月何日何時何分に誰がどこの図書館にいたのか」というのは、帯出の履歴などとともに、図書館が守るべき最高度の秘密に属しています。図書館が館内での写真撮影を禁止するのは、他の利用者の姿を撮影させないためであると言うことができます。(選挙の投票所での撮影が禁止されているのと理由は同じです。)

 このような観点から眺めるなら、図書館内の防犯カメラの設置とその運用について、他の公共の空間の場合とは異なる特別な配慮が必要となることは明らかでしょう。

 防犯カメラは、利用者の姿を記録します。特定の日時に誰が館内にいたのかがわかるばかりではなく、カメラの数や解像度によっては、「特定の利用者が閲覧席でいつ何を読んでいたか」までわかってしまうかも知れません。もちろん、「館内でいつ誰が何を読んでいたか」というのは、図書館が決して外部に明かさないと約束した事実の1つです。

 高解像度の防犯カメラを設置し閲覧席を含む館内をくまなく撮影することは、図書館が守ることを利用者に約束してきた高度な個人情報を暴露の危険にさらします。たしかに、図書館は公共の施設であり、図書館が所蔵する資料は、社会の共有財産です。社会の共有財産を保護し保全することは、図書館の使命の1つに数えられなければなりません。それでも、図書館の社会的な使命を考慮するなら、館内における利用者の行動がわかるような仕方で防犯カメラをくまなく設置することには慎重であるべきであると私は考えています1

  1. 図書館を運営する自治体の中には、個人情報の保護の観点から、図書館における防犯カメラの運用について指針やガイドラインを定め、これを公表しているところがあります。ただ、残念ながら、すべての自治体にこのような指針やガイドラインがあるわけではないようです。 []

関連する投稿

コメントをお願いします。