数年前から、大学入試における不正行為がある意味において「高度化」しています。これは、大学関係者にとってはいくらか気がかりな事実です。
私が不正行為の「高度化」と名づけるのは、不正行為をめぐる技術革新のことです。スマートフォンやワイヤレスイヤホンなど、小型の電子機器を誰もが使えるようになり、その結果、(スマートウォッチやタブレット型端末を含め)すべての電子機器の使用が禁止されているにもかかわらず、問題の解答にこれを使用する受験者が増えているのです。
現在はまだ、電子機器を用いた不正行為がいたるところで発生しているわけではありません。小さくなったとはいえ、スマートフォンもイヤホンも、監督者が目で確認することができる程度のサイズであり、隣の受験者の答案を「チラ見する」ことに代表される「古典的」「原始的」な手法とくらべ、電子機器を試験中に使うことは、まだ相当に困難であると言うことができます。
しかし、近い将来、イヤホンやカメラは、監督者が目視で確認することができないほど小型化されるかも知れません。そのときにはもはや、監督者には、不正行為を直接に「取り締まる」ことはできなくなるでしょう。
もっとも、「電子的不正行為」のハードルが下がるとしても、不正行為の全体の件数は、それ自体としては必ずしも増加しないと私は予想しています。次の文章において以前に述べたように、入学試験における監督者は、不正行為を摘発するためではなく、不正行為を防止することを目的として試験室に身を置いています。
人間の目を頼りに不正行為の「手段」を発見することが困難になるとしても、監督者に与えられた役割、いわば「超自我」の「よりしろ」としての役割が不要になることはないように思われます。