筆記具の中には、独立のキャップがあるものと、キャップのないものがあります。回転式やノック式のボールペンあるいはシャープペンシルは、キャップがない筆記具の典型です。これに対し、キャップのある筆記具を代表するのが万年筆とサインペンです1 。
ところで、キャップのある筆記具を使うとき、このキャップをどのように扱うかは、人によって異なります。私の場合、サインペンを使うときには、キャップをペンの尻の方にはめます。(これを「キャップポスティング」と呼びます。)しかし、万年筆については、キャップをポストしません。短時間の使用なら左手にキャップを持ったまま、筆記の時間が長ければ、キャップを机の上に置きます。
万年筆を使うときにキャップをポストしないのは自然に身についた昔からの習慣であり、理由を考えてみたことはありませんでした。サインペンのキャップよりも万年筆のキャップの方が重く、ポストすると、ペンの重心が尻の方に移動してしまいます。特に、ある程度以上の値段のする外国製の万年筆のキャップは、大きくて重いのが普通です。試行錯誤の結果、ポストしない方が書きやすいことがわかり、万年筆を使うときにはキャップを机の上に置くようになったのではないかと想像しています。
アメリカ人のある万年筆愛好家のブログによれば、ヨーロッパではキャップをポストしないのが普通であるのに反し、アメリカではキャップをポストする方が多いようです。(もともと、キャップをポストして使用することが想定された短い万年筆については、このかぎりではありません。)そして、このブロガーは、この差異の原因を、アメリカよりもヨーロッパにおいて万年筆が普通の筆記具として浸透しているという事実に帰しています。(下に続く)
日本人には、ヨーロッパもアメリカも、万年筆の普及率に関して大きな違いはないように見えますが、実際には、大西洋の東西では、万年筆が筆記具に占める位置が大きく異なるのかも知れません。
なお、国産の万年筆のキャップは、本体の値段には関係なく、外国産のものとくらべて軽く、キャップをポストしても、重心は後ろにズレないように感じられます。
また、別のブロガーは、重心の問題とは別に、キャップをポストしたときに軸に傷がつく危険があることを指摘しています。(このブロガーは、キャップが重いヨーロッパの万年筆ばかりではなく、パイロットあるいはTWSBI(台湾のブランドです)のように、キャップが軽い万年筆でもキャップをポストしないことを勧めています。)(下に続く)
万年筆を使用する人口は、少なくともわが国では減ることはあっても増えることはないでしょう。万年筆のキャップをポストしない人口がそれぞれの社会における万年筆の普及の程度と相関するなら、今後、わが国では、万年筆を使うときにはキャップをポストすることが普通になるかも知れません。(それよりも、万年筆を日常的に使用する人口がゼロになる方が先かも知れませんが。)
- 万年筆にノック式のものがまったくないわけではありません。例えばパイロットは、「キャップレス」という万年筆のシリーズを販売しています。 [↩]