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神は笑うか(前篇)

by 清水真木

 「神は笑うか。」この問いに対する答えは、端的に「否」です。笑うことができる存在者は人間にはいないからです。
 人間以外の生物は笑いません。「笑っている」と解釈することができるような「表情」を顔面に作る生物がいるとしても、これは笑いではなく、人間による解釈あるいは擬人化にすぎません。

 動物が笑わない——当然、ユーモアのセンスもない——理由は、今のところは、必ずしも明らかにされてはいませんが、笑う能力は、創造的な言語使用能力と深く関連するものであると私は考えています。

 動物に言語がないとは、動物には徹頭徹尾「誠実」である以外のあり方が不可能であることを意味します。そして、誠実でしかありえないのは、「今、ここ」に「ある」ものをこの範囲の外部にあるもの、すなわち、「今、ここ」に「ない」ものと関係づけることが動物にはできないからです。

 反対に、人間に「不誠実への自由」があるとするなら、それは、創造的な言語使用能力、つまり、文を単語へに分節する、文法にもとづいて単語を組み合わせて文を作る、否定、条件、全称、特称、選言、連言などの各種の論理語を用いて文を文章へと組み立てて行く・・・・・・、このような能力により、「今、ここ」という針の先のような狭い範囲の現実を超え出て行くことができるからであるに違いありません。そして、人間に笑うことができるのは、言語によって導かれる想像力のおかげであると考えるのが自然です。(下に続く)

 他方において、人間を「超える」存在者として想定されたかぎりでの「神」もまた、別の意味において笑うことは不可能です。もちろん、「神」という言葉の定義次第では、「笑う神」なるものを想定することは不可能ではありません。実際、たとえば七福神のうち、「えびす」や「布袋」は、笑顔で描かれるのが普通です。

 ただ、神が神と見なされる所以は、何らかの意味において人間を超え出ている点にあります。人間とのこのような差異に注意を向けるなら、「神であるかぎりにおける神」が笑うというのは、ありそうもないことであるように思われます。(後篇に続く)

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