私はゲームには不案内で、ほぼ何も知りませんが、以前から気になっていたことが1つあります。それは、RPG(ロールプレイングゲーム)と呼ばれるジャンルを代表するゲームの多くにおいて、そのテーマ(というか舞台となる空間)が「中世ヨーロッパもどき」の要素の寄せ集めであるということです。特に、(私が知る範囲では、したがって、偏っている可能性は十分にありますが、)製作者たちは、特に私たちが生きる「今、ここ」とは異なる「いつか、どこか」をデザインするにあたり、「中世ヨーロッパのステレオタイプ」を繰り返し参照しているように見えます。
描かれる街並みがなぜか中世のヨーロッパ的であったり、移動手段が馬であったり、筆記用具が羽ペンや羊皮紙だったり、ひとけのない場所に怪物が徘徊していたり、戦闘で使われる兵器が弓矢や刀や魔術であったりします。そして、これらが組み合わせられることで、「ピンボケした中世」が産み出されることになるわけです。
「中世ヨーロッパもどき」の空間に舞台を求めた最初のRPGが何であったしても、また、その実際の理由がどのようなものであったとしても、RPGと中世の結びつきには、ある必然性が認められるように思われます。というのも、中世は、「探求」(quest) とその手段としての「旅」(journey) の意義に着目した最初の時代だったからです。(「人生とは旅である」――どこかの自己啓発書にありそうなフレーズですが――という考え方は西洋中世の発明品であり、古典古代には認められないと一般に考えられています。)
RPGが「探求」と「旅」を本質とするジャンルであると言ってよいかどうか、ゲームに不案内な私にはわかりません。
ただ、「探求」と「旅」というキーワードがゲームの製作者たちに(ことによると不知不識に)中世ヨーロッパ、つまり、非常に多くの人間が探求、自己省察、成長の手段として空間を移動した時代を想起させたとしても、これは決して不思議ではないように思われます。