昨日、次の記事を読みました。
「45歳定年制」なるものについて、私には賛成/反対を表明する能力がありません。プロの経営者が公然と主張することである以上、私には想像もつかない何らかの利点があるはずですが、残念ながら、それが何であるのかまではわかりません。
とはいえ、記事にコメントを執筆している人の多くは、この制度の趣旨が人件費の削減にあると理解しているようです。私には、これについてもまた、正しいかどうか判断する能力がありません。しかし、この理解が正しいとするなら、「45歳定年制」は失敗する可能性が高いように思われます。つまり、企業が従業員に不自然な働き方を強要するのでないかぎり、この制度を導入しても、人件費の総額は大して減らないはずです。常識にもとづいて素朴に考えるなら、この点は明らかであるように思われます。(※民間企業の給与体系や人事制度については完全な素人のため、私の話には間違いが含まれている可能性があります。)
「45歳定年制」が一律に導入されると、どこに何歳で就職しても45歳の誕生日に企業から自動的に放り出され、その後の生活が保障されなくなります*1。
しかし、もともと65歳であった定年が45歳に引き下げられ、かつ、給与が現在の水準に据え置かれると、企業は、すぐれた働き手を安定的に確保することの困難にただちに直面するはずです。なぜなら、この制度のもとでは、従業員は、45歳の定年後に収入が完全に途絶えても最低限の生活を維持することができるだけの資金を定年前に確保しておかなければなりませんが、この目論見に見合う給与が支払われない場合、「割に合わない」と受け止められ、低賃金はそれ自体として忌避されるはずだからです。
具体的には、給与の水準は、45歳以降の20年間に支給されることが期待されていた賃金に相当する額を45歳までの従業員の毎月の給与に分割して上乗せしたものに近づいて行くに違いありません*2。
プロ野球選手の平均的な報酬は、同世代の平均的な会社員よりも高額です。これは、生活費を確実に稼ぐことができる期間がきわめて短く、その後の生活が一切保障されていないからです。同じように、会社員の定年を引き下げるのなら、その分、賃金の上昇は避けられません。
現在の若い会社員が安月給で働いているとするなら、それは、賃金の支払いが長期間にわたって保証され、かつ、将来において上昇して行く見込みがあるからです。言い換えるなら、彼ら/彼女らは、年功賃金のもとで給与の支払いの相当部分が繰り延べされているという理解のもとで低賃金を受け入れているにすぎないと考えるのが自然です。
*1:もちろん、45歳の定年後、ただちに年金が支給されるような仕組が併せて整備されるのであれば、あるいは、ベーシックインカムが導入されるのであれば、話は別です。
*2:すべての企業が人件費を無理やり据え置くと、個人消費が落ち込んでデフレが発生するような気もします。