Home 世間話 『ジャーナリズム』(岩波新書)の仮名遣いと文字遣いについて

『ジャーナリズム』(岩波新書)の仮名遣いと文字遣いについて

by 清水真木

 私の祖父の1949(昭和24年)の著作『ジャーナリズム』(岩波新書)が12月に増刷されることになりました。もうずいぶん長いあいだ増刷されていなかったものであり、今回(2021年12月)のものは「5刷」に当たります。

 増刷自体は悦ばしくないことはないのですが。ただ、この増刷には、これを素直に喜ぶことを妨げるある事情があります。それは、『ジャーナリズム』の仮名遣いと文字遣いです。

 『ジャーナリズム』は、著者が現代仮名遣い(いわゆる「新仮名」)で執筆した最初の著作です。(『清水幾太郎著作集』(講談社)において『ジャーナリズム』以前の著作がすべて古典的仮名遣い(いわゆる「旧仮名」)であるのは、初版の仮名遣いをそのまま踏襲した結果にすぎません。)

 しかし、『ジャーナリズム』は、最初から現代仮名遣いで執筆されたことが原因で、文字面にいちじるしい不統一が認められます。現代仮名遣いの使用についての混乱が社会全体で続いていた時期であるという事情を考慮してもなお、次回の増刷——増刷されることがあるとするなら、の話ですが——において何らかの処置が必須であるように思われます。

 入稿の際に印刷所に渡された原稿が残されてないため、確実なことは何も言えないのですが、古典的仮名遣いでまず原稿が執筆され、次に、これが、当時はまだ実際の使用例がほとんどなかった現代仮名遣いに置き換えられ、併せて漢字のひらがなへの置き換えが行われたようです。

 しかし、残念ながら、この作業は、必ずしも系統的に行われておらず、現在から見ると、恣意的な「行き当たりばったり」のものに見えます。文字遣いに不統一がどのページにも散見します。中には、本人が決して使わない文字遣いが含まれています。

 詳しいことは、『清水幾太郎著作集』第9巻の「解題」の371ページ以降を参照してください。当時の仮名遣いの事情、仮名遣いをめぐる本人の考え方がまとめられ、それとともに、文字遣いの主な不統一が130例——130箇所ではありません——掲げられています。(なお、「解題」に列挙されたものは、不統一のすべてではありません。)

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