何年か前のある日、私の授業を履修している4年生の1人からメールをもらったことがあります。このメールには、次の週の授業と同じ日時に、その学生が志望する企業の最終面接の予定があること、したがって、欠席を認めてもらいたいことが記されていました。
就職活動を理由として授業を欠席する権利は、法律上も、また、大学の規則上も、学生には認められていません。これは、大学の教師として是非ともハッキリさせておきたい点です。大学にとっては、大学生を対象とする民間企業の採用活動というのは、教育の妨害以外の何ものでもないのです。
ただ、私は、また、大学の教師の多くは、就職活動を授業に優先させることを容認してきました。(断じて推奨しているのではありません。)学生が卒業後に路頭に迷っても、教師には責任をとれないからです。
私自身は、学生の欠席について、その学生の就職活動に関係するイベント(面談や面接)が授業と重なる場合のみ、これを認めることにしています。ただ、欠席を希望する場合、そのイベントの内容、場所、時刻を私に対して事前に具体的に明らかにするよう求めています。これは妥当なルールであると私は考えています。
ところで、私が学生から受け取ったメールには、ある気になる表現が含まれていました。「企業様」というみっともない待遇表現です。学生は、面接を実施する企業のことを「企業様」と呼んでいたのです。私は、この表現に強い違和感を覚えました。学生が私に向かって語りかけるとき、「企業」に「様」をあえて加える理由がわからなかったからです。
一般的に言って、ある会話において、ここに参加していない第3者に敬称を使うというのは、いくらか特殊な場合に限られるはずです。もっとも多いのは、教師や医者が話題になるときに用いられる「先生」、あるいは、話者の立場に関係なく敬意を表するのが社会通念上常識とされている存在、たとえば、会話の当事者が日本人なら、天皇や皇族に言及するときには「陛下」「殿下」などの敬称でしょう。