Home やや知的なこと ミニマリズムの始め方(前篇)

ミニマリズムの始め方(前篇)

by 清水真木

 私は、現在の日本の言論空間に散見する「ミニマリズム」をめぐる言説が疑わしいものであると考えています。

 私がここで想定している「ミニマリズム」とは、絵画、彫刻、建築、音楽などにおいて表現を与えられた現代藝術の潮流の1つではなく、所有するモノをできるかぎり減らすことを肯定的に評価する立場、および、モノのを減らすために実際に行われる努力を意味します。この意味において「ミニマリズム」と呼ばれているものは、今のところ、「シンプル・ライフ」のある側面を歪んだ形で先鋭化する試みと見なすことが可能です。

 私自身が英語のminimalismという名詞がこの意味で使われているのを初めて目にしたのは、2009年ごろのことです。何がきっかけだったか、もはや覚えていないのですが、2009年の秋、次の本を新刊で手に入れて読みました。私の手もとの記録によれば、日本語の初版を刊行と同時に入手して読んだようです。(普段の私なら手を出さないタイプの自己啓発書です。私には何の記憶もありませんが、心が折れそうになっていたのかも知れません。)

 同じ2009年には、「断捨離」という言葉を流行させた次の本が刊行され、翌2010年には、有名な『人生がときめく片づけの魔法』が公刊されていますが、私は、いずれも読んでいません。

 そして、minimalismという言葉に出会ったのは、上の本を読んだあと、関連する情報を集めるために英語圏のネットメディアをパラパラと眺めていたときだったと記憶しています。

 探してみたところ、英語圏には、「ミニマリズムの伝道師」と名づけることができるブロガーがたくさんいて、ミニマリスティックな日常生活の様子をネット上で報告したり、モノを整理するためのルールや秘訣を開陳したりしていることがわかりました。

 これら「ミニマリズムの伝道師」の著作のいくつかは、日本語で読むことができます。

minimalism 〜30歳からはじめるミニマル・ライフ

 実際、GoogleのBooks Ngram Viewerで確認したところ——書物での用例に限られますが——英語のminimalismという名詞の使用は2005年がピークになっています1

 日本人が「ミニマリズム」という言葉をみずから使用するようになったのは、しかし、これからずいぶん遅れて2015年、下記の本が刊行されたころからであったはずです。(後篇に続く)

  1. アメリカ英語に限定するなら、最初のピークが2007年、その後、一度減少してから増加に転じ、2013年以降、現在まで、用例の数は、大変な勢いで増加し続けています。 []

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