Home 世間話 買い物の前に際限なく情報収集することについて(その1)

買い物の前に際限なく情報収集することについて(その1)

by 清水真木

 私の場合、インターネットが買い物の主なチャンネルの1つになったのは、最近15年くらいのあいだのことです。これ以前にも、ネットで買い物をしないわけではありませんでしたが、ネットは、あくまでも、欲しいものの在庫が現実の世界の店舗にないとき、これを何としてでも手に入れるための特別な手段にすぎませんでした1

 たしかに、ネットでの買い物には便利な側面があります。購入したものを自宅に持ち帰る手間は原則としてかかりませんし、しつこい店員につきまとわれて不快な思いをすることもありません。(ネットでの買い物が安上がりであるかどうかはわかりませんが、それでも、)手間と時間がそれなりに節約可能であることは事実です。

 ただ、ネットでものを買うようになっても、買い物のための時間は、全体として、必ずしも少なくなりませんでした。というのも、情報収集にかける時間が大幅に増えたからです。

 たしかに、何万円、何十万円を必要とする高額の商品を購入するときには、ネット経由で買うかどうかには関係なく、候補となる複数の商品の仕様を比較したり、商品を実際に使用した人々の感想を探したりすることが望ましいでしょう。

 しかし、現実には、購入する可能性がある商品の情報を——その商品の価格には関係なく——集めるのに膨大な時間を費やすようになりました。具体的には、購入にデッドラインを設定しないかぎり、わずか1000円の商品のために、何時間も、あるいは、何日もネットで情報を集め続けることが多くなったのです。そして、ネットで情報を集めているかぎり、商品を手に入れるための操作の実行が際限なく繰り延べられて行き、最終的に、調べるのに疲れて買うのを諦めてしまったこともあります。

 ネットでものを購入するとき、私たちは、「正しく買い物しなければならない」という要求を——不知不識に——引き受けているように見えます。正しく買い物するとは、買うべきものを適切に選びとり、これを適切な値段で手に入れることを意味します。そして、私たちが情報収集に膨大な時間を費やすのは、情報を完全に収集することによって初めて正しい買い物が可能になると信じられているからであるに違いありません。

 けれども、適切な商品を手に入れるために必要な情報の量は、商品の性質によって異なります。購入したあとに簡単には替えがきかないもの、たとえばマンションや自動車なら、誰もが丁寧に下調べするはずであり、また、調査の手間は必須でしょう。これに対し、1冊のノートを文房具屋で購入するために何時間も情報収集に費やすのは、常識的に考えるなら、過剰な無駄な作業となるでしょう。ノートを購入してみて、使い心地が悪ければ、次回からは別のノートを選ぶようにすればよいだけだからです。

  1. だから、2000年代前半までは、「ヤフオク!」(2013年までは「Yahoo! オークション」)での買い物が全体の半分を占めていました。 []

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