1年ほど前から、自宅でひとりで食事するとき、タブレット型端末でYouTubeの動画をときどき眺めるようになりました。(私がYouTubeの動画を眺めるのは、あまりにも疲れているときだけです。疲れがひどくなければ、本や雑誌を目の前に広げたり、テレビを観たりします。)
私がYouTubeで見るのは、主に外国、特にアメリカやヨーロッパの大都市の街頭の映像です。「city+walking」「city+walks」などの語で検索すると、カメラを構えたまま街頭を歩き回って撮影したと推定される高解像度の映像がたくさんヒットします。私自身は、これを「勝手に動いて街を案内してくれるGoogleストリートビュー」として受け止めています。
ところで、このような動画を眺めていると、興味深いことがわかります。新型コロナウィルス感染症の流行が始まってからのこの2年間にアップロードされた動画を観ることにより、私たちは、街の様子を眺めながら、それぞれの街における「マスクをつけた歩行者の割合」を簡単に確認することができるのです。
東京の繁華街、たとえば銀座や新宿の街頭では、マスクをつけない歩行者を見かけることは滅多にありません。自宅以外の屋内でマスクをつけない人は、さらに少ないはずです。これに反し、少なくとも動画のかぎりでは、感染症の流行がもっとも深刻であった時期においてすら、ニューヨークのマンハッタンでは、屋外でマスクをつけている歩行者の割合は——テラスで飲食している客を含め——全体の半分以下です。最近、ベルリンの繁華街の2021年秋の映像をたまたま見つけましたが、この映像においてカメラに収められた人々のうち、マスクを着用しているのは2割程度にすぎませんでした。画面に映し出される街の様子は、それ自体としては決して特異なものではありません。
現在、私は東京で暮らし、普段の生活は、東京都内で完結しています。自宅の玄関から一歩でも外に出るときには、必ずマスクを着用し、同じ空間に他人がいるかぎり、マスクを外すことはありません。また、東京で生活するかぎり、これは自然なふるまいであり、マスクなしで街頭に出ることは好ましくないと私は考えています。
当然、東京では、電車の中でも街頭でも、「マスクなしの顔」は大変に目立ちます。1つでも見つけると、気になって距離をとりたくなります。
ところが、ニューヨークやベルリンの街頭では、「マスクなしの顔」の方が多数派です。マスクの着用が徹底していないことが感染者が減らない原因の1つであることは紛れもない事実ではありますが、それでも、しばらく眺めているうちに、不思議なことに、画面上の歩行者が誰もマスクをつけていないことが気にならなくなってきます。マスクを着用することの効用に関する科学的な常識が全世界において共通であるにもかかわらず、私たちが「自然」と感じるふるまいは、その場の「空気」の影響を強く受けるということなのでしょう。