Home やや知的なこと 音声入力が得意な人と苦手な人の違いについて(その2)

音声入力が得意な人と苦手な人の違いについて(その2)

by 清水真木

※この文章は、「音声入力が得意な人と苦手な人の違いについて(その1)」の続きです。

音声入力を定型的な文章の入力にしか使わない者は、「音声入力が得意」には該当しない

 しかし、その前に、「音声入力を得意とする人」の集合から、次のような人々を除外しておきたいと思います。「音声入力が得意」な人に該当しないのは、定型的な文章を短時間で入力するために音声を用いる人々です。具体的には、ビジネスにおいて必要となる型どおりのお礼、挨拶、報告、連絡などのメールを書くためにキーボードではなく音声を用いる人々です。

 また、音声入力が実用に耐えるものであるという主張の根拠として挙げられているのも、大抵の場合、このような定型的な文章、あるいは、数十文字程度の短いセンテンスの入力の実例です。

 しかし、定型的な文章や短い断片的な文を素早く入力することができても、「音声入力が得意」ということにはなりません。これらはいずれも、「音声で文章を書く」作業ではなく、「記憶した文章を読み上げる」作業にすぎないからです。同じ定型的な文章を書くなら、日本語入力システムを用いてテンプレートを丸ごと短縮表現で単語登録し、これを呼び出す方が、音声入力よりもさらに何倍も早くなります。ATOKの場合、100文字程度の定型的な文章なら、2秒で入力することができます。

単語を排列するスピードが話すスピードよりも遅いからなのか?

 音声入力を苦手とする理由として挙げられることが多いのが、「考えるスピードが話すスピードに追いつかない」という点です。実際、音声入力では、次に話すべき内容を整理することができず、沈黙してしまうことが少なくありません。

 頭の中に浮遊している観念の星雲を整理し、言葉を選び、そして、これを排列する作業には時間がかかります。特に、他人の目に触れる可能性がある文章をキーボードを用いて入力するときには、ただ書くだけではなく、私たちは、これを推敲するのが普通です。当然、どれほど努力しても、考えるスピードが話すスピードに追いつくはずがありません。私たちが日常的な会話において不自然な間を置かずに言葉の交換ができるのは、交換されるメッセージの大半が定型的な表現から成り立っているからであるにすぎません。この意味において、「考えるスピード」と「話すスピード」のあいだのズレが音声入力を困難にしているというのは、それ自体としては誤りではありません。

 ただ、このズレの背後には、さらに根本的な原因があるように思われます。というのも、両者のスピードのあいだのズレが明らかであるにもかかわらず、世の中には、「音声入力が得意」な人が少なくないからです。音声入力(または口述筆記)のみで長篇小説を完成させしてまうような作家——もっともよく知られているのは松本清張です——すらいます。

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